公務員試験 2019年 国家一般職(行政) No.59解説

 問 題     

情報伝達に関する次の記述のうち,妥当なのはどれか。

1.W.リップマンは,現実環境はあまりに複雑であるため,人々はテレビが提供する情報を通じてしか現実環境を把握できなくなっていると指摘し,自然発生的な現実の出来事ではなく,マスメディアによって人為的につくられた偽物の出来事を「疑似イベント」と名付けた。

2.E.モランは,フランス中部の都市オルレアンで実際に起きた銀行倒産事件を調査し,経営不振のうわさは誤っていたにもかかわらず,人々が銀行から預金を一斉に引き出したことによって,結果として現実に銀行が倒産してしまったように,人々が予言を信じて行動した結果,予言が実現されることを「予言の自己成就」と呼んだ。

3.M.E.マコームズとD.L.ショーは,選挙時の調査から,マスメディアは,現実に生起する出来事の中から何を報じ,何を報じないか,また,何をどの程度大きく扱うかという判断を通じて,受け手である人々の注意を特定の争点へと焦点化するとし,これを「議題設定機能」と名付けた。

4.E.カッツとP.F.ラザースフェルドは,マスメディアが発信する情報は,人々の意見が多数派であるか少数派であるかを判断する基準となっているとし,自分の意見が多数派であると認識すると積極的に意見を表明し,少数派であると認識すると孤立を恐れて段階的に沈黙するようになっていくとする「沈黙の螺旋」仮説を提唱した。

5.J.クラッパーは,マスメディアの限定効果説を否定し,情報の送り手であるマスメディアが意図したとおりのメッセージが,情報の受け手に直接的に伝わるとする「皮下注射モデル」を提示し,マスメディアが発信する情報は,個人に対して,強力な影響力を持つとした。

 

 

 

 

 

正解 (3)

 解 説     

選択肢 1 ですが
リップマンは著書「世論」で、「疑似環境」や「ステレオタイプ」の概念を提唱しました。疑似環境はマスコミによって構築された環境です。ステレオタイプは、頭の中にあらかじめ存在するものの見方、型のことです。疑似イベントは、ブーアスティンが提唱した用語です。疑似イベントとは、報道されることを企図して、企業などが本物らしくよそおってつくりあげる出来事や催し物のことです。選択肢 1 は誤りです。

選択肢 2 ですが
予言の自己成就を提唱したのは、マートンです。モランではありません。モランは「オレルアンのうわさ」の著者です。

選択肢 3 は妥当です。
マコームズとショーの議題設定機能に関する記述です。

選択肢 4 ですが
沈黙の螺旋 を提唱したのは、E.ノエル = ノイマンです。(H26no3)。「沈黙の螺旋」とは、マスメディアがある争点に関する人々の意見分布を報道することにより、自分を少数派だと感じる人々が意見の表明を抑制する傾向が生まれ、その結果ますます多数派の意見のみが強く報道されるようになるという現象です。カッツとラザースフェルドによって示されたのは、2段階の流れ仮説です。人々はマスメディアから直接情報を受け取らず、所属地域のオピニオンリーダーを介したコミュニケーションの影響を強く受けるという内容です。(H30no5)。

選択肢 5 ですが
クラッパーは、マスコミは先有傾向を〈強化〉する働きが強いという結論を引き出しました。(H28no4)。ちなみに、皮下注射モデルとは、マス・コミュニケーションによって情報が受けての心の中に侵入し、思想や態度を思いのままに変え、操作してしまうという考え方です。(H27no57)。選択肢 5 は誤りです。

以上より、正解は 3 です。

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