公務員試験 H30年 国家一般職(行政) No.5解説

 問 題     

有権者の投票行動に関する次の記述のうち,妥当なのはどれか。

1.P.ラザースフェルドらコロンビア大学の研究者たちは 1940 年代,エリー調査の分析を通じ,有権者の社会的属性によって政治意識・投票行動を説明する「社会心理学モデル」の実証を試みた。その結果,社会経済的地位が高く,プロテスタント系の有権者において,民主党に投票する割合が高かったことが明らかにされた。

2.投票行動の理論モデルの一つである「ミシガン・モデル」では,有権者の投票行動は,政党帰属意識,争点態度,イデオロギーという三つの心理学的変数によって説明される。ミシガン学派の主張によると,このうち,政党帰属意識は選挙ごとに大きく変化するものとされ,投票行動を強く規定する短期的要因であるとみなされた。

3.M.フィオリーナにより定式化された「業績投票モデル」では,有権者が現政権の過去の業績を高く評価すれば,政権政党やその候補者に投票するとされる。これまで,特に経済政策面の業績に注目した研究が蓄積され,自分自身や社会全体の経済状況に基づいて投票する有権者の存在が明らかにされてきた。

4.A.ダウンズは,「合理的選択モデル」に基づく投票行動理論に対し,経験的・帰納的アプローチの観点から批判的な検討を行った。主著『民主主義の経済理論』において,彼は大規模な世論調査を実施し,多くの有権者が各政党の政策的立場を考慮せずに投票していることを実証的に示した。

5.容姿や人柄など,候補者個人のイメージを重視した投票を「個人投票(personal vote)」という。米国では,議会選挙の分析を通じ,こうした有権者の行動が確認された。他方,我が国の 55 年体制期においては,有権者は各政党の党首に注目することが多く,候補者個人を重視した投票は例外的であるとされた。

 

 

 

 

 

正解 (3)

 解 説     

選択肢 1 ですが
ラザースフェルドらによるエリー調査によれば、地位の高い者・プロテスタント・郊外居住者では共和党支持者が多く、地位の低い者・カトリック信者・都心部の居住者では民主党信者が多い、ということが明らかとなりました。宗教と投票する党の対応が違います。ちなみに、人々はマスメディアから直接情報を受け取らず、所属地域のオピニオンリーダーを介したコミュニケーションの影響を強く受けます。「コミュニケーションの2段階の流れ仮説」と呼ばれます(H28no4)。選択肢 1 は誤りです。

選択肢 2 ですが
ミシガン・モデルによれば、政党帰属意識が長期的には投票を左右するという心理的要因を指摘しました。「政党帰属意識は・・・短期的要因」ではありません。ちなみに、短期的には候補者に対するイメージの影響が強く、同じ短期的要因の中でも政策争点に対する態度の影響が小さいことも指摘しました。選択肢 2 は誤りです。

選択肢 3 は妥当です。
フィオリーナの「業績投票モデル」です。

選択肢 4 ですが
ダウンズは「合理的選択モデル」に基づき、2つの政党が争う選挙において、それぞれの政党が選挙に勝利した後に実施する政策について、有権者Aが得る効用の期待値の差(期待効用差)が、有権者Aの投票行動を規定すると考えました。「「合理的選択モデル」に基づく・・・理論に対し・・・批判的検討を行った」わけではありません。選択肢 4 は誤りです。

選択肢 5 ですが
経験してきた選挙から、「候補者個人を重視した投票」は「一般的」と感じるのではないでしょうか。少なくとも「例外的」ではないと判断できると思われます。選択肢 5 は誤りです。

以上より、正解は 3 です。

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