公務員試験 H30年 国家一般職(行政) No.6解説

 問 題     

行政国家と官僚制に関する次の記述のうち,妥当なのはどれか。

1.A.ダウンズは,官僚は自らの効用を最大化しようとする合理的な行為者であるとし,権力や収入等の自己利益を純粋に追求する官僚と,自己利益に加えて,事業の達成や組織レベルの目標,公益の実現等の利他的忠誠とを結び付けた混合的な動機付けを持つ官僚に分類した。

2.P.ピーターソンは,「都市の限界」を唱え,地方政府が再分配政策を実施すると,低所得者は負担の少ない他の自治体への退出を図り,他方で,再分配政策による便益を求めて高所得者が他の自治体から流入してくるというジレンマ状況を,「福祉の磁石(welfare magnet)」現象として捉えた。

3.C.I.バーナードは,部下には,上司の指示・命令を無意識に受容することのできる範囲があるとした。一方で,それを外れた範囲の指示・命令に従うことは精神的・肉体的苦痛を伴い,個人的利害や組織の目的にも反しているため,従うことができないとして,この後者の範囲のことを無差別圏(無関心圏)と呼んだ。

4.L.v.シュタインは,国家の役割を考察するために社会を知る必要性を説き,国家と社会を対立するものとして捉えた上で,国家の役割は,国家意思に基づいて国家機関が実施する「憲政」,国民が国家意思を形成する「行政」であるとし,「憲政」と「行政」が対等の相互作用関係にあることを指摘した。

5.P.セルズニックは,官僚制における分業は利害の統合を生み出し,官僚は,組織の下位目的よりも組織全体の上位目的を重視し,次第にそれにコミットするようになるとし,これを上位目的の内面化と呼び,官僚制全体の目的達成が促進されるとする機能論を示した。

 

 

 

 

 

正解 (1)

 解 説     

選択肢 1 は妥当です。
ダウンズは、経済理論をモデルにして政治家や官僚の行動を分析しました。『民主主義の経済理論』 の著者です。

選択肢 2 ですが
ピーターソンは、「地方自治体が福祉サービスの給付に代表される再分配政策を実施 → 税負担能力の低い低所得者層を引きつける」という流れを指摘しました。これが「福祉の磁石」です。このため、地方自治体は構造的に福祉政策に積極的になれないから、中央政府が担うべきという「都市の限界」論を提唱しました。「再分配政策による便益を求めて高所得者が他の自治体から流入してくるというジレンマ状況」ではありません。選択肢 2 は誤りです。

選択肢 3 ですが
バーナードによれば、「上司の指示・命令を無意識に受容することのできる範囲」が無差別圏(無関心圏)です。従って「後者の範囲」ではなく「前者の範囲」です。選択肢 3 は誤りです。

選択肢 4 ですが
シュタインは現代行政学の先駆といえる国家学の大家です。国家と社会を対立するものとして捉えました。また、国家の役割として、「憲政」=「国民の参加による国家意思形成」と、「行政」=「国家意思の具体的遂行+国家による社会的改革」という2つを指摘しました。憲政と行政は相互依存し対等、かつ、相互に優越しあう二重の関係と考えました。この関係は「行政なき憲政は無内容、憲政なき行政は無力」というフレーズで知られています。「憲政」と「行政」が逆です。選択肢 4 は誤りです。

選択肢 5 ですが
P.セルズニックは,官僚制による分業が組織内での利害の「分岐」を生み,官僚制全体の目的よりも下位組織の目的を重視し内面化することで,それぞれの利害が対立し,組織内のコンフリクトが生じると指摘しました。(H28no6)。「利害の統合を生み出し・・・目的達成が促進される」と考えたわけではありません。選択肢 5 は誤りです。

以上より、正解は 1 です。

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