公務員試験 2019年 国家一般職(行政) No.61解説

 問 題     

人間の記憶に関するA~Dの記述のうち,妥当なもののみを全て挙げているのはどれか。

A.米国のケネディ大統領暗殺事件や,ニューヨークの世界貿易センタービルにおけるテロ事件など,衝撃的な出来事に接した人が,その出来事を含む当時の状況を鮮明かつ詳細に記憶し,長期間にわたって覚えていることがある。いわば,カメラのフラッシュが光ったときの状況を鮮明に写したような記憶であることから,このような記憶はフラッシュバックと呼ばれ,何度も繰り返して想起されるために,時間が経過しても記憶内容が正確であるという特徴がある。

B.記憶の障害は健忘症と呼ばれ,心的ストレスなどの心理的な原因で起こる内因性健忘と,脳の損傷によって起こる外因性健忘とに分けられる。H.M.のイニシャルで知られる患者は,外因性健忘の典型例であり,てんかんの発作を抑える治療のため,海馬を含む左右両側の側頭葉の切除手術を受けた結果,手術以前の出来事や様々な知識に関する記憶の多くが失われる症状を示した。このように,健忘症の発症より前の記憶が失われる症状を,前向性健忘又は順向性健忘という。

C.記憶は,その人の内的状態やその人を取り巻く環境的文脈が,覚える時と思い出す時で一致しているかどうかによって影響を受ける。環境的文脈が記憶に影響を及ぼすことを示した研究として,スキューバ・ダイビングのクラブの学生を対象とした実験がある。この実験では,水中又は陸上で,単語のリストの記銘学習と再生テストを行ったところ,それぞれを同じ環境で行った条件の方が,異なる環境で行った条件よりも再生成績が良いという結果が得られている。

D.人が何らかの出来事を目撃した後,その出来事に関する事実ではない情報に接した場合に,目撃した出来事の記憶の正確さが損なわれることがあり,この現象を事後情報効果という。例えば,ロフタス(Loftus, E.F.)らの実験では,交通事故に関する一連のスライドを見た直後に,スライドの内容とは矛盾する架空の内容に関する質問を受けた参加者群は,そのような質問を受けなかった参加者群に比べ,再認テストで架空の内容を写したスライドを事前に見たと誤って答える傾向が強かった。

1.A,B
2.A,C
3.A,D
4.B,C
5.C,D

 

 

 

 

 

正解 (5)

 解 説     

記述 A ですが
フラッシュバックではなく、フラッシュバルブ記憶についての記述です。ブラウンとクーリックが提唱しましたが、コンウェイが指摘するように、その後の研究によって、フラッシュバルブ記憶の細部は当初思われていたほど正確ではないことが示されています。(法務省専門職 H27 no3)。記述 A は誤りです。

記述 B ですが
発症よりも前の記憶が失われるのは「逆行性健忘」です。(参考 H26 no62)。記述 B は誤りです。

記述 C,D は妥当です。

以上より、正解は 5 です。

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