公務員試験 H26年 国家一般職(行政) No.62解説

 問 題     

記憶と脳の関係を説明するに当たり、脳損傷患者 (脳に物理的損傷のある患者) の示す記憶障害を通して推論・論証していく方法がある。これにより、海馬をはじめとする脳の部位と記憶との関連が明らかにされている。

記憶障害を示す脳損傷患者の中でも、その記憶機能が広範囲にわたって研究されてきた例として,難治性てんかん患者 H.M.の症例が挙げられる。H.M.は、てんかん病巣摘出手術を受けた際に、両側の側頭葉、海馬、海馬傍回などの一部が損傷し、術後、重度の記憶障害を発症したことが知られている。H.M.の記憶障害に関する記述として最も妥当なのはどれか。

1. 数列を即座に復唱する課題では、手術前には7桁までの復唱が可能であったが、手術後には3桁しか復唱できなくなった。

2. 初めにいくつかの単語を提示し、次に、提示した単語及び提示していない単語の語幹のみを提示して単語を完成させる語幹完成課題を行わせたところ、初めに記憶した単語が課題の遂行を促進するプライミング効果は認められなかった。

3. 鏡に映った像を見ながら図形をなぞる鏡映描写を1日集中的に学習させると、その日の終わりには成績の向上が認められた。しかし、翌日にはその技能を学習したことを忘れており、成績は学習前のレベルに戻った。

4. 知能検査や失語症鑑別診断テストを実施したところ、手術前と比べて、手術後は成績が大きく低下しており、言語能力に障害が認められた。

5. 手術後には、前向性健忘に加えて、逆向性健忘も認められた。この逆向性健忘は、手術前のおよそ 10 年間の出来事の記憶において特に顕著であった。

 

 

 

 

 

正解 (5)

 解 説     

難治性てんかんの治療のために、脳切除を受け、術後記憶障害を示し、広範囲に渡って研究された H.M についての知識問題です。

H.M は、手術により海馬機能が損傷→『重度前向性健忘+中程度の逆行性健忘(11 年前まえまでの記憶が所々ない、手術直前の記憶がない)』という症状を見せました。

また、手続き的記憶はできるため、新しい運動技能を訓練すると、できるようになるが、訓練したという記憶はありませんでした。このような健忘にもかかわらず、知的検査を通常に遂行、ほぼ正常な言語能力を示した。また、ごく短い期間における想起は可能であることが、ワーキングメモリーの実験でわかりました。

選択肢 1,2 ですが
ワーキングメモリーに影響はなかったとされているため、手術前と手術後で「数列の即時復唱課題」の結果は変わらないと考えられます。また、プライミング効果は認められました。選択肢 1,2 は誤りです。

選択肢 3 ですが
鏡映描写の学習は、新しい運動技能の訓練です。学習により上手になるのですが、学習したという記憶がありませんでした。成績は学習後維持されるが、「こんな練習したことあったっけ?」という状態であったということです。選択肢 3 は誤りです。

選択肢 4 ですが
正常な言語能力を示したことが記録されています。選択肢 4 は誤りです。

以上より、1~4が誤りなので、正解は 5 です。

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