公務員試験 H26年 国家一般職(行政) No.63解説

 問 題     

自己評価に関する L.フェスティンガーの考え方についての記述として最も妥当なのはどれか。

1. 人間には、環境を理解し環境に対し有効な働き掛けを行うために必要な基本的動因として自己評価への動因があり、自己評価のための客観的、物理的な手段が利用できない場合には、他者と自己とを比較すると主張した。さらに、正確で安定した自己評価を得るために、比較他者となり得る者のうち、自分の能力や意見と近い他者との比較がなされるとした。

2. 社会的比較における自己評価欲求と自己高揚欲求のうち、自尊感情に対する脅威があるときは前者がより強く働き、自分より下位の者との比較によって主観的幸福感を増大させようとするという下方比較の理論を提唱した。さらに、深刻な病といった自己の脅威を経験した人や自尊感情の高い人ほど、頻繁に下方比較を行う傾向があることを実験により明らかにした。

3. 自己評価維持モデルを提唱し、人は、自己評価を維持するために認知や行動を変化させると主張した。例えば、自己との関連性が高い課題において心理的に近い他者の遂行レベルが自分のものよりも優れていた場合、「その課題における自己の遂行レベルを低下させる」、「その他者との心理的距離を更に近づける」などの認知的、行動的な変化の予測が可能になるとした。

4. ある課題で高く評価されている個人・集団と自己との結び付きを強調することで自己の評価を高めようとする現象を、栄光浴と名付けた。これは、課題と自己との関連性が高い場合に起こりやすいとされ、自分が所属している集団の評価を高め、反対に対立集団の評価を下げるという方略が使われることも明らかにされている。

5. 理想自己(本当はどうなりたいか)や当為自己(どうあるべきか)は、自己指針あるいは自己基準として現実自己を評価する際の枠組みになると考えた。そして、それら諸自己間のずれをセルフ・ディスクレパンシーと呼び、現実自己と理想自己のずれが大きい場合は不安や緊張を、現実自己と当為自己のずれが大きい場合は落胆や失望を経験しやすいと主張した。

 

 

 

 

 

正解 (1)

 解 説     

選択肢 1 は妥当です。
フェスティンガーの提唱した社会的比較についての記述です。

選択肢 2 ですが
下位の者との比較により主観的幸福感を増大させようとするのは、自己高揚欲求と関連した社会的比較です。従って、「前者」ではなく「後者」が妥当です。選択肢 2 は誤りです。

選択肢 3 ですが
自己評価維持モデルとは、自己関連性、遂行、心理的距離の3要因が自己評価レベルを決定し、3要因の調整として、比較過程と反映過程の2つを想定したモデルです。例えば、自分がピアニストとして、友人がコンクールで入賞した場合を考えます。モデルを用いて考えると、自己関連性が高く、遂行において他者の方が優れており、友人なので心理的距離が近い事例です。

この際、心理的距離を拡大したり(「友人はもう別の世界の人」など)、遂行レベル向上を目指す(「自分も入賞できるようがんばろう!」)といった感情行動が行われると考えられます。「自己の遂行レベルを低下させる」や「心理的距離を更に近づける」という予測が可能になるわけではないと考えられます。選択肢 3 は誤りです。

選択肢 4 ですが
前半は妥当です。栄光浴についての記述です。後半ですが、栄光浴は、自己評価を高めるための現象です。自己関連性が高く、遂行において他者が優れている場合は、自己との結び付きを強調、すなわち心理的距離を近づけるのではなく、心理的距離の拡大が行われると考えられます。つまり、栄光浴が、課題と自己の関連性が「高い」場合に起こりやすいわけではないと考えられます。選択肢 4 は誤りです。

選択肢 5 ですが
ヒギンズがセルフディスクレパンシー理論(自己不一致理論)を提唱しました。L.フェスティンガーの考え方についての記述として、妥当ではありません。ちなみにですが、当為自己と現実自己との差異は、義務や責任だと感じていることを実現できていないことから、何らかの制裁と結び付き、恐怖や緊張などが生じるとされています。一方、理想自己と現実自己の差異は、落胆や失望につながりやすいと考えられます。選択肢 5 は誤りです。

以上より、正解は 1 です。

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