国家公務員総合職(化学・生物・薬学)H26年 問29解説

 問 題     

図はある化合物の 1H NMR スペクトルである。この化合物の構造式として最も妥当
なのはどれか。

 

 

 

 

 

正解.4

 解 説     

問題の図には4つのシグナル(6ppm、5.5ppm、4ppm、2ppm)があるので、左側から順に考えていきます。

まず、左側の2つのシグナル(6ppmと5.5ppm)について、選択肢1,2,3には芳香環があり、選択肢4,5はアルケンを有するので、これら2つのシグナルはこのあたりが該当しそうです。

一般的に、芳香環に付いたHの化学シフトは6~9ppmで、アルケンの二重結合に付いたHの化学シフトは4.5~6ppmとなります。そのため、今回はアルケンである可能性が高いですが、より慎重に考えたい場合には現時点では断定しないほうが無難です。

とはいえ、ここには2つのシグナルしかないので、選択肢1は誤りであると判断できます。選択肢1の芳香環に直接結合している4つのHはそれぞれ非等価なので、この場合は4種類のシグナルとなるはずです。

また、これら2つのシグナルは積分値が等しいので、選択肢2も誤りであるとわかります。選択肢2の芳香環に直接結合している3つのHは、2Hと1Hに分かれ、積分値が異なります。

この時点で、選択肢は3,4,5に絞られます。

続いて、4ppmあたりのシグナルに注目します。選択肢3,4,5の全てに「エステルのO原子の隣接Cに結合するH」(RCOOCH2R’)があり、エステルの化学シフトは一般的に3.5~4.5ppmとなるので、ちょうど一致しています。

ここで選択肢を見ると、選択肢3と5の構造は「RCOOCH2CH3」なので、赤字の水素は隣接水素が3つあり、四重線となるはずです。一方、選択肢4の構造は「RCOOCH3」なので、赤字の水素に隣接水素がなく、一重線となります。

よって、選択肢4だけが正しいので、正解は4です。

ちなみに、2ppmあたりの多重線は、アルケンの2H分が該当します。アルケンの場合は隣接炭素に付いたHだけでなく、cis位やtrans位にある炭素に付いた水素も影響するため、シグナルが複雑化(多重線)しやすいです。

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