遺伝とDNA

親が髪の色が黒だと、子の髪の色も黒というように、親の形質(次代に伝わる形体や性質のこと)が子に受け継がれる現象を遺伝といいます。

ある個体における形質は、各細胞の核に含まれる DNA に塩基配列として保存されています。髪を構成する細胞が無数にあって、全ての細胞の核の DNA の一部に「黒い色素を作るんだよ」って書いてあるから、髪が黒いということです。ヒトの形質については、父由来の DNA セットと、母由来の DNA セットの2セットを各細胞の核に有しているという点をまずしっかり意識しましょう。「DNAセット」のことを「ゲノム」といいます。

さらっと書いていますが、遺伝の実体を分子レベルで証明したのは、せいぜい 100 年前ぐらいだし、当たり前に学ぶようになってから数十年しか経っていないです。「遺伝の実体が DNA である」ということを示した実験として、肺炎球菌を用いたグリフィスの実験、エイブリーの実験が知られています。

肺炎球菌のさやを有し病原性のある S 型と、さやがなく病原性のない R 型を用いて、S 型菌を加熱殺菌してマウスに注射しても発病しないが、加熱殺菌したものを R 型に混ぜて注射すると、R → S となる「形質転換」がおきることを示したのがグリフィスの実験です。抽出物にタンパク分解酵素を入れても形質転換は起きるが、DNA 分解酵素を入れると形質転換が起きないことを示したのが、エイブリーの実験です。

肺炎球菌の実験では「よくわからない成分 X の存在」により形質転換が起きているのでは?といった疑問を完全に否定することができませんでした。遺伝の実体が DNA であることを決定づけたのが、ファージと呼ばれる、DNA とタンパク質からなる「細菌に感染するウイルス」を用いたハーシーとチェイスの実験です。ファージのいい点は、構成が 「DNA + タンパク質」と極めて単純である点です。大腸菌内で、子ファージが作られるために、タンパク質でなく DNA が必要であることを、放射性 P (DNAを標識する)及び 放射性 S (タンパク質を標識する)を用いて示しました。

DNA は「糖+塩基+リン酸」からなるヌクレオチドを単位構造とし、多数鎖状につながって二重らせん構造を有する高分子化合物です。糖部分はデオキシリボースと呼ばれる 五炭糖です。塩基部分が A,T,G,C の四種類です。それぞれ、A:アデニン、T:チミン、G:グアニン、C:シトシン です。

塩基は基本骨格により、大きくプリン塩基(A,G) と、ピリミジン塩基(T,C) に分類されます。DNA の塩基に注目すると、A と T、C と G が相補的に結合している点が特徴です。以下に構造を示します。覚える必要はありませんが、各塩基が大きくプリン塩基かピリミジン塩基か、という分類は思い出せるようにしておくとよいです。

DNA の大部分は細胞における核内に存在しますが、通常はのび広がっています。そして、細胞分裂の際は、ヒストンと呼ばれる塩基性タンパク質に巻きつきます。この「DNA+ヒストン」でまとまった基本単位をヌクレオソームと呼びます。ヌクレオソームがさらに密に並んで折りたたまれ、圧縮され、染色体と呼ばれる構造を形成します。

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