薬剤師国家試験 第107回 問218-219 過去問解説

 問 題     

60 歳女性。右上葉原発性肺腺がんと診断され、右上葉切除術が施行された。その後、術後補助化学療法が施行され経過観察となった。術後 4 年経過時、胸部 CT 写真で右鎖骨上窩リンパ節に転移が認められ、再発と診断された。

ALK 融合遺伝子陽性が確認されたため、クリゾチニブ 250 mg、1 日 2 回の投与による治療が開始された。投与 13 日目時点でリンパ節の腫瘍は縮小傾向を認めた。

各時点における主な検査値は以下のとおりである。

問218

医師との合同カンファレンスにおいて、医師から薬剤師へ投与 13 日目以降の薬物治療について意見を求められた。薬剤師の提案として、適切なのはどれか。1 つ選べ。

  1. 本剤の投与を同一用量のまま継続し、他剤の追加は行わない。
  2. 本剤の投与を同一用量のまま継続し、グリチルリチン酸一アンモニウム・グリシン・L-システイン塩酸塩水和物を追加する。
  3. 本剤の投与を中止し、緩和ケアのみの治療へ変更する。
  4. 本剤の投与を休止し、アレクチニブ塩酸塩へ変更する。
  5. 本剤の投与を休止し、ソラフェニブトシル酸塩へ変更する。

問219

本症例では、遺伝子変異により生じた ALK 融合遺伝子及び ALK 融合タンパク質が検出されている。がんとこの遺伝子変異に関する記述として、正しいのはどれか。2 つ選べ。

  1. この患者のがん細胞では、染色体上、ALK 遺伝子の一部分に逆位が生じている。
  2. この患者の ALK 融合タンパク質では、チロシンキナーゼ活性が亢進している。
  3. この患者では、ALK 融合遺伝子が親から遺伝したと考えられる。
  4. この患者の ALK 融合遺伝子は、フィラデルフィア染色体の形成により生じる。
  5. ALK 融合遺伝子の検出には ELISA 法が用いられる。

 

 

 

 

 

正解.
問218:4
問219:1, 2

 解 説     

問218

肝機能検査値の上昇が止まらず、しかも加速しており「同一容量のまま継続」は不適切です。選択肢 1,2 は誤りです。

選択肢 3 ですが
年齢 60 歳であること、腫瘍は縮小傾向にあることといった状況をふまえ、緩和ケアのみの治療への変更は不適切と考えられます。肝障害の副作用をふまえた、治療方針の変更を模索するべきです。選択肢 3 は誤りです。

選択肢 4 は妥当です。
アレクチニブ(®アレセンサ)は、クリゾチニブの同類薬です。(国試には不要なレベルの知識ですが、同様の症例において、クリゾチニブ休薬後、アレクチニブ投与で奏功というケースレポートも見られました。妥当な選択と考えられます。)

選択肢 5 ですが
ソラフェニブ(®ネクサバール)は、マルチチロシンキナーゼ阻害薬です。腎細胞がん や 肝細胞がん 及び 甲状腺がん に用いられます。(101-65)。適用が肺がんにない点、及び、作用機序の違いから不適切と考えられます。選択肢 5 は誤りです。

以上より、問 218 の正解は 4 です。

問219

選択肢 1,2 は妥当です。

選択肢 3 ですが
親からの遺伝である、と考える根拠がありません。選択肢 3 は誤りです。

選択肢 4 ですが
フィラデルフィア染色体とは、9−22染色体の相互転座により生成される bcr-abl 遺伝子を有する染色体のことです。慢性骨髄性白血病に高頻度で見られます。(105-59)。ALK 融合遺伝子がフィラデルフィア染色体の形成により生じるわけではありません。選択肢 4 は誤りです。

選択肢 5 ですが
ELISA 法は 抗原抗体反応を利用した測定法です。融合遺伝子の検出であれば、遺伝子配列を読む検査法である PCR などが適切と考えられます。選択肢 5 は誤りです。

以上より、問 219 の正解は 1,2 です。

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