問 題
27歳男性。体重50kg。父をドナーとする生体腎移植治療が予定されている。7日後の移植術を控え、術後に用いるタクロリムスの投与設計を薬剤師が依頼された。
問270
この患者にタクロリムスを経口投与し、24 時間採血を行った際の血中濃度時間曲線下面積 (AUC0-∞) は 120 μg・h/L、一次モーメント曲線下面積 (AUMC0-∞) は 1,320μg・h2/L であった。また、タクロリムス 0.5 mgを急速静注した直後の血中濃度は 10 ng/mL であった。
この患者にタクロリムスを 1 日 1 回経口投与し、定常状態における平均血中濃度を 10 ng/mL としたい。適切な投与量 (mg) に最も近い値はどれか。1つ選べ。
ただし、タクロリムスの吸収速度定数を 1.0 h-1 とし、バイオアベイラビリティを 0.2 とする。また、タクロリムスの体内動態は線形 1 – コンパートメントモデルに従うものとし、反復投与によってタクロリムスの体内動態は変化しないものとする。
- 1.0
- 1.2
- 3.0
- 5.5
- 6.0
問271
術前の投与設計によって、タクロリムスカプセルの投与を手術当日夕食後より開始した。7日後に退院予定であるが、病棟担当薬剤師が行う患者への指導内容として、適切なのはどれか。2 つ選べ。
- クロレラの摂取を控える。
- 加熱調理した野菜の摂取を控える。
- グレープフルーツの摂取を控える。
- 乾燥弱毒生風しんワクチンの接種を控える。
- インフルエンザ HA ワクチンの接種を控える。
正解.
問270:5
問271:3, 4
解 説
問270
定常状態の血中濃度 Css とおくと、思い出すべき公式は『Css = (D/τ)/CL』 ・・・(1)です。本問は 1 日1回なので、τ = 24(h) です。また、CL = ke・Vd は基本的な関係式です。
問題文の初めから見てみると
「平均滞留時間(MRT) = AUMC/AUC(公式)」 です。(101-172)。従って、平均滞留時間が 1320/120 = 11 時間 とわかります。
また「経口時の MRT=1/ka + 1/ke」が公式です。吸収速度定数 ka = 1 と問題文にあるので、11 = 1 + 1/ke です。これにより、ke = 0.1 とわかります。
Vd についても、0.5mg を急速静注したら 血中濃度が 10 ng/mL とあるので、Vd = D/C0 より、単位に注意して Vd = 50000 mL と求めることができます。これで CL = ke・Vd = 0.1 × 50000 = 5000 (mL/h) と求めることができました。
(1)に代入することで、D を求めることができます。
ただし、経口投与でバイオアベイラビリティが0.2 なので、D の所を 0.2D にすることに注意が必要です。
10 = (0.2D/24)/5000
→ 0.2D = 10 × 5000 × 24
→ D = 6.0 × 106 (ng) = 6.0 mg となります。
以上より、問 270 の正解は 5 です。
問271
選択肢 1 ですが
クロレラ食に伴う ビタミン K 過剰摂取で ワーファリンの薬効減弱が知られています。タクロリムスカプセル投与時に特に摂取を控える必要はありません。選択肢 1 は誤りです。
選択肢 2 ですが
特に加熱調理した野菜を避ける必要はありません。選択肢 2 は誤りです。
選択肢 3 は妥当です。
タクロリムスは CYP 3A4 により代謝されます。グレープフルーツにより CYP が阻害され、結果血中濃度上昇、副作用につながりうるため、摂取を控えます。
選択肢 4 は妥当です。
乾燥弱毒生風しんワクチンの接種は勧められません。(105-246)。
選択肢 5 ですが
インフルエンザ HA ワクチンは、不活化ワクチンです。不活化ワクチンの接種を控える必要はありません。選択肢 5 は誤りです。
以上より、問 271 の正解は 3,4 です。
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