公務員試験 2019年 国家一般職(行政) No.57解説

 問 題     

国家に関する次の記述のうち,妥当なのはどれか。

1.K.マルクスは,物質的な生産諸関係の総体を上部構造とし,国家は,その条件下で形成される法的,政治的な下部構造と考え,資本主義社会においては上部構造を支える労働者の階級的な利益を擁護する機関となるとした。

2.F.テンニースは,成員が「あらゆる分離にもかかわらず結合している」集団をゲゼルシャフト,「結合しているにもかかわらず分離している」集団をゲマインシャフトと呼び,近代の合理的国家は成員を法で結び付けるのでゲマインシャフトとした。

3.I.ウォーラーステインによると,出版資本主義や印刷メディアの発達によって,人々の心や意識の内部に「地球村(グローバル・ヴィレッジ)」が形成され,近代国家におけるナショナリズムと鋭く対立するようになった。

4.J.ハーバーマスは,国家による支配や統制に対抗し,市民の自由な言論による世論形成の場として機能する領域を市民的公共圏と呼び,その起源の一つを17 世紀後半のイギリスに現れたコーヒー・ハウスに求めた。

5.N.ルーマンは,19 世紀以降に成立した単一の世界システムは中核,半周辺,周辺という三つの層から形成されるとし,中核に位置する国家の中でも産業,金融,軍事などの領域において優位を獲得した国家をヘゲモニー国家と呼んだ。

 

 

 

 

 

正解 (4)

 解 説     

選択肢 1 ですが
マルクス主義、史的唯物論における「下部構造」は、物質的な生産諸関係の総体です。「上部構造」は、社会の政治や文化等のことです。上部構造は下部構造により規定され、制限を受けるという考え方です。下部構造と上部構造が逆です。選択肢 1 は誤りです。

選択肢 2 ですが
ゲゼルシャフトは「利益社会」と呼ばれます。団体に加わって得られる利益が、成員の関心の中心である点が特徴です。ゲマインシャフトは「共同体組織」と呼ばれます。家族や村落のような「信頼に満ちた親密な水いらずの共同生活」です。マイン → mine → 私のもの → 家族 と連想すると忘れにくいかもしれません。合理的国家による、法で結び付けられた集団は「ゲゼルシャフト」と考えられます。選択肢 2 は誤りです。

選択肢 3 ですが
ウォーラーステインは「近代世界システム」において世界システム論を提唱し、世界を「中央、半周辺、周辺」の三層構造と捉えました。(H28no56)。グローバル・ヴィレッジ(Global village、地球村)という言葉は、マーシャル・マクルーハンが 1962 年の著書『グーテンベルクの銀河系』でこの用語を使用したのがきっかけで広まった用語です。マクルーハンによれば、電子的マスメディアによって、時間と空間の限界が取り払われ、地球規模で対話、生活できるようになり、地球全土がひとつの村に変貌したことを表す用語です。選択肢 3 は誤りです。

選択肢 4 は妥当です。
ハーバーマスは「公共圏を取り戻し、対話的理性の重要性を訴えた」人です。(H29no1)。

選択肢 5 ですが
記述はウォーラーステインの世界システム論についてです。ルーマンは社会を、コミュニケーションの複雑性を「縮減」させながら作動する「システム」として定義しました。(H28no57)。選択肢 5 は誤りです。

以上より、正解は 4 です。

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