薬物の脳への移行

薬物は脳へ2つのルートから移行します。1:血液→脳 へのダイレクトコースと、2:血液→脊髄液 という間接的なコースです。

脊髄液とは、脳や中枢の表面を覆う無色透明の液体です。栄養補給や、不要物除去の役割を担います。脊髄液は血液を原料に、脈絡叢(みゃくらくのう)という部分で作られます。

重要なイメージとしては、血中の薬物は、脳へそれほど移行しません。それはなぜか といえば2点理由があります。1:血液脳関門の存在(血液→脳へのダイレクトコースを防ぐ)、2:血液脳脊髄液関門の存在 (血液→脊髄液のコースを防ぐ)イメージとしては、以下の図のようになります。

この2つの「実体」は何か という点が、知識としては最重要です。血液脳関門(Blood brain barrier = BBB と略す。)の実体は、毛細「血管」の「内皮細胞」です。つまり、脳付近の毛細血管は物質が漏れ出にくくなっている、というイメージです。一方、血液脳脊髄液関門(Blood-cerebrospinal fluid barrier = BCSFB と略す。)の実体は、「脈絡叢」の「上皮細胞」です。脈絡叢付近の毛細血管は、脳の毛細血管ほど、内皮細胞ががっちり結合しておらず物質はある程度漏れるが、脈絡叢の方の上皮細胞が余計な物を入れないようがっちりしている、というイメージです。

ここまでの話をまとめるなら、脳への移行に2ルートありそれぞれにおいて、異なる細胞が いわば関門を作っているため血中の薬物は、脳へそれほど移行しない。 ということになります。しかし、そうはいっても関門の実体は細胞であり、その表面である細胞膜は、脂質です。従って、脂溶性の高い薬物、つまり、クロロホルム、エーテルなどは関門を通過し、脳へと比較的移行しやすいです。さらに、様々な担体も発現しているため、ブドウ糖などは、能動輸送や促進拡散で通過します。

BBB に関する具体的話題として、レボドパについて覚えておくとよいです。レボドパは、パーキンソン治療に用いられるドパミンのプロドラッグです。ドパミンは、BBB を通過できません。しかしレボドパは、アミノ酸輸送体と呼ばれるトランスポーターによって容易に BBB を通過します。そして、その後、中枢神経系において直ちにドパミンへと変換されるのです。

以下は補足。
このメカニズムから、食事によりタンパク質を摂取してから時間をおかずにレボドパを服用すると、トランスポーターをアミノ酸が競合してしまい中枢への移行が障害されるおそれがあると考えられます。ちなみにレボドパの用法・用量は、食後です。ただし、効果をより高く求める時に空腹時服用が進められたりもします。

パーキンソン病は、ドパミン系とコリン系のバランスが重要であるため、効けばいいというものではなく、医師の診断に基づき薬の量が調節されます。とはいえ、適切な意見を伝え最適な薬物治療に貢献するために、このようなメカニズムを理解しておくべきであろうと思います。補足 以上。

演習 100-42

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