製剤材料としての分子集合体

同一化合物であっても、三次元分子配列構造が異なる場合に製剤学的性質が異なることがあります。代表的なものとして、結晶多形があげられます。

結晶多形とは、同一化学物質で、結晶構造の異なるもののことです。融点が高く、溶解度の小さいものを安定形結晶といいます。融点が低く、溶解度の大きいものを準安定形結晶といいます。溶解度が小さくなると、経口投与した時に吸収率に影響があるため、薬効に変化が生じます。そのため、多形が存在する化合物の製造において、結晶形に関して一定の品質を保つことが重要となります。結晶多形が知られている、代表的な薬物として、抗生物質クロラムフェニコールパルミテート(CPP:chloramphenicol palmitate)があげられます。

結晶多形の検出は、粉末 X 線解析、赤外吸収スペクトル測定法、熱分析法、融点測定法などにより行います。

又、薬物を溶媒から結晶化する際に、溶媒分子を取り込んで安定な結晶を生成することがあります。溶媒分子をとりこんだ結晶は、溶媒和物と呼ばれます。特に水分子が結合している結晶は、水和物と呼ばれます。

代表例としては、ペニシリン系の抗生物質であるアンピシリン水和物があげられます。又、ACE阻害剤であるリシノプリルも、ニ水和物の結晶が安定であることが知られています。

一般に、水和物は無水物に比べて安定です。これは、水分子が分子の間に入り込み、化合物と水分子の間において形成される水素結合により、無水物よりも強固な結合ネットワークを形成するからであると考えられます。

さらに、非晶質(アモルファス)と呼ばれる、不規則な分子配列状態を有する固体状態が知られています。非晶質は、結晶よりも安定性が低いことが特徴です。安定性が低いことから、溶解度や溶解速度は大きくなります。

非晶質は、液体急冷法による製法が知られています。すなわち、液体状態にある化合物を急激に冷却することで、化合物は、融点よりも低い温度で過冷却液体として存在します。そこでさらに冷却すると、ある温度を境に(ガラス転移点と呼ばれます。)急激に不規則な配列を持つ固体(ガラス状態と呼ばれます。)に変化することが知られています。

非晶質と、ガラス状態は、ほぼ同じような文脈で使用されますが、ガラス転移点が明確に存在するかしないかにより非晶質とガラスを定義することもあるようです。

また、分子がカゴ状の構造を有し、別の分子を中にとりこむことにより安定な構造をとることがあります。このような化合物は包接化合物と呼ばれます。包接化合物において、カゴ状の分子は、ホスト分子と呼ばれます。中にとりこまれる分子は、ゲスト分子と呼ばれます。

包接化合物にすることにより、難溶性薬品の可溶化、薬物の安定化などに応用されています。代表的な包接化合物として、アルプロスタジルアルファデクスが知られています。これは、アルプロスタジル(ゲスト分子)とシクロデキストリン(ホスト分子)の包接化合物です。

アルプロスタジルとは、プロスタグランジンE1という、血小板凝集抑制などの生理活性を有する化合物です。プロスタグランジンE1は化学的に不安定で、静脈投与するとすぐ不活化してしまいます。そこで、シクロデキストリンという、数分子の D-グルコースが環状構造をとった環状オリゴ糖と包接化合物とすることで、安定化に成功しました。

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