臨床試験のしくみと実務

本の内容を簡単に…

本書は、臨床試験や治験について、それらの仕組みやルールを解説し、さらに実務のプロセスを紹介しています。

具体的には、次のような章立てになっています。

  1. 臨床試験のしくみ
    1. 「臨床試験」とは何だろな? ─「臨床試験」の定義と分類─
    2. P値が0.05を下回る結果があったぞ!と喜んでいいの? ─統計解析結果の解釈にあたって知っておきたい事項─
    3. 医薬品の開発で必要な臨床研究とは?
    4. 治験は、「企業主導」と「医師主導」に大別される!
    5. 医療上必要な医薬品を患者さんに届けるための治験以外の方法 ─公知申請の存在とそのしくみ─
    6. 医薬品の開発を審査する機関とは? ─PMDAとその役割─
    7. 第Ⅰ相試験はSADとMADに分けられる! ─治験の種類(1)第Ⅰ相試験─
    8. 第Ⅱ相試験は、前期(P2a)と後期(P2b)に分けられる! ─治験の種類(2)第Ⅱ相試験─
    9. グロ─バルで行われる医薬品の開発 ─治験の種類(3)第Ⅲ相試験─
    10. 治験を実施する際のル─ルについて ─GCP(Good Clinical Practice)─
    11. グロ─バルで医薬品を開発する際、どの国のル─ルを適応するの? ─国際共同治験における考え方─
  2. 臨床試験の実務
    1. 治験を円滑に実施するための人材とは!? ─治験の遂行に係るスタッフ─
    2. 現場の治験業務を支えるCRAは大忙し! ─治験のモニタリングと試験推進・管理 study management─
    3. マニュアル作りが重要! ─標準業務手順書(SOP)の意義と考え方─
    4. 医師主導治験で医師がやること ─医師主導治験への応用─
  3. 安全性対策
    1. 「有害事象」と「副作用」は意味が異なる!
    2. 重篤な有害事象(SAE)とは何のこと? ─SAEは医学的な重症度とは異なる!─
    3. SAEが副作用であるなら、それが予測できたかを確認! ─SAEに対する対応:予測可能性の判断─
    4. SAEが発生した際の情報の行方 ─医師・CRA・企業の対応─
    5. SAE発生時にはそれが副作用であるかを確認! ─因果関係の判断─
    6. 治験中の安全性情報は定期的に報告される ─治験安全性最新報告(DSUR)─
    7. 医薬品が安全に使用されるための管理体制 ─医薬品リスク管理計画(RMP)─
    8. 医薬品安全性監視計画 ─薬剤に関連する内容を学会報告すると、後日情報提供を求められるのはなぜ?─
    9. 医薬品の安全性調査に関するル─ル ─GVPとGPSPとは?─

著者はこんな方

著者は安藤克利さんです。来歴は、順天堂大学の呼吸器内科、中外製薬の臨床開発本部などを経て、今(2021.1現在)はクリニックの院長をされています。大学病院の臨床業務のときに現場での治験に携わり、製薬企業のときにはMD(メディカルドクター)として臨床試験に関わっていたそうです。

また、監修は高橋和久さんです。順天堂大学医学部附属順天堂医院の院長をなさっている方です。

おすすめのポイント

この本は、臨床試験の専門書よりは簡潔で読みやすく、大学で使用するような教科書の1章分として取り扱う内容よりは詳しく丁寧に説明されているため、薬学生にはちょうどよい読み物だと思います。

たとえば、臨床試験と治験の違いはご存知でしょうか。前者が人を対象とした治療を兼ねた試験であるのに対し、後者は臨床試験の中でも薬の承認を目的としたものを指す言葉です。

これは基礎的な知識ですが、このような説明から始まり、両者の手続きやデザインの仕方、実施事項にはどのような違いがあるのか、といった具体的なことまで詳しく説明があります。

もう一つ別の例を出すと、日本と欧米では副作用の考え方が異なっています。日本では因果関係が否定できない有害事象を副作用と見なし(いわゆるCannot be ruled out)、欧米では因果関係がある有害事象を副作用と見なします(いわゆるReasonable possibility)。

このような解釈の違いがあると治験の上でどのような影響が出るのか、また、なぜ統一しないで日本では主流から外れた方法を取っているのかについても、きちんと説明されています。

こんな感じで、臨床試験に関することが事前知識なしで読んでも充分に理解できて、楽しめる内容となっています。特に、治験の取扱いがある病院や製薬企業、あるいはPMDAやCROに就職する可能性のある人にはお勧めの一冊です。

こんな人におすすめ!

  • 1, 2年生には、臨床試験や治験の手順やGCPのことを学ぶよい参考書になると思います。
  • 3, 4年生には、治験の現場(臨床現場ではなくデザインして運用する側の立場)の雰囲気を知るのに適しています。
  • 5, 6年生には、学問としての復習&就職後のイメージを掴むのに役立ててほしいです。

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