問 題
58歳男性。身長162cm、体重88kg。10年前から健康診断で、高血圧及び高血糖を指摘されていたが放置していた。喫煙歴30年(1日10本程度)、20歳ごろよりビール大びん2本と日本酒1合程度をほぼ毎日飲酒していた。
数ヶ月前より、全身倦怠感が次第に強くなってきているのを自覚していたが、本日、外出中に駅の階段で動けなくなり、救急搬送された。
(来院時の所見及び検査値)
意識は清明であり、四肢に運動・感覚障害は認めない。
血圧 190/110 mmHg、心拍数 72 拍/分、AST 210 IU/L、ALT 150 IU/L、γ-GTP 175 IU/L、血清クレアチニン値 0.71 mg/dL、血清浸透圧 300 mOsm/L、血糖値 310 mg/dL、HbA1c 10.5 %(NGSP値)、尿糖 (3+)、尿中アルブミン 正常、尿蛋白 (-)、尿中ケトン体 (3+)、浮腫 (-)
問290
この患者に起きている状況として、考えられるのはどれか。2つ選べ。
- 高血圧緊急症
- くも膜下出血
- 糖尿病性腎症
- 高浸透圧高血糖症候群
- 糖尿病性ケトアシドーシス
問291
上記患者は、1ヶ月の入院加療後退院し、以下の処方で通院治療を続け、3年が経過した。
運動療法及び食事療法も指導されたとおり実践しており、処方された薬剤は指示どおり服薬していたが、飲酒はやめられないと話している。今回の検査で以下の結果となり、再教育のため入院となった。
(所見及び検査値)
入院時体重 68kg、血圧 140/85mmHg、心拍数 70拍/分、AST 35IU/L、ALT 42IU/L、γ-GTP 162IU/L、血清クレアチニン値 2.6mg/dL、空腹時血糖値 180mg/dL、HbA1c 8.2%(NGSP値)、尿糖 (+)、尿蛋白 (2+)、尿中ケトン体 (-)、下肢浮腫 (-)
この患者に対する処方提案のうち、適切なのはどれか。2つ選べ。
- メトホルミンの増量
- シタグリプチンをリナグリプチンに変更
- フロセミドの追加
- テルミサルタンの追加
- アムロジピンの増量
正解.
問290:1, 5
問291:2, 4
解 説
問290
60 歳近く、少しぽっちゃり、高血圧、高血糖、たばこ吸ってる、毎日お酒を飲む という、本当にひと昔前であれば、多数派だったおじさんの1人といった設定です。これが今や少数派といっていい、少なくとも喫煙者について、本当に少なくなったことに時の流れを感じます。20年後の症例設定は、どんなものになっていることなんでしょう。
選択肢 1 は妥当です。
高血圧緊急症は、別名悪性高血圧とも呼ばれます。血圧が異常に高いだけでなく、血圧上昇により、脳、心臓などに急性障害が起こり、進行します。病気急性期の症状は、頭痛や悪心(吐き気)、嘔吐、けいれん、意識障害、視力、視野障害などです。
選択肢 2 ですが
運動・感覚障害がなく、突然の頭痛にも触れられていないし、くも膜下出血ではなさそうです。選択肢 2 は誤りと考えられます。
選択肢 3 ですが
尿中アルブミン 正常、尿蛋白 (-) とあり、糖尿病性の腎症とは符号しません。選択肢 3 は誤りです。
選択肢 4 ですが
高浸透圧性高血糖状態は、糖尿病の代謝性合併症です。高血糖(≧600mg/dL)、高浸透圧血症(≧320mOsm/L)をきたします。極度の脱水、および意識変容などが特徴的症状です。ここまで高い血糖値、浸透圧ではありません。選択肢 4 は誤りです。
選択肢 5 は妥当です。
ケトアシドーシスとは、インスリン不足により組織における糖利用が低下し、その補償機構として脂肪酸分解(β酸化)が進むことで、代謝物であるケトン体の生成が亢進し、血液の pH が酸性に偏ることです。血中の pH は通常 7.35 ~ 7.45 に保たれていますが、pH 7.35 未満をアシドーシスと呼びます。
以上より、問 290 の正解は 1,5 です。
問291
3年経過後し
体重 -20kg、血圧、肝機能、血糖値など 全般的に改善しており、すごく良好ですが、血清クレアチニン値が基準値(男性 0.6 ~ 1.1)を大きく超えています。
血清クレアチニンが高いということは、腎糸球体におけるクレアチニンのろ過量が少ないということを示唆します。腎臓をろ過装置とすれば、腎糸球体はろ紙にあたります。ろ過量が少ないというのは、このろ紙が目詰りをおこしているイメージです。
腎機能の低下をふまえると
シダグリプチンからリナグリプチンへの変更は妥当です。(参考 104-264267)。
また
腎保護機能も期待できる テルミサルタンを、まだ少し高めの血圧を下げるために追加するのは妥当な提案と考えられます。
以上より、問 291 の正解は 2,4 です。
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