薬剤師国家試験 第104回 問264-267 過去問解説

 問 題     

58歳男性。糖尿病の診断を受け近医で薬物療法を継続していたが、定期的に受診せず、アドヒアランスも良好ではなかった。今回、吐き気、食欲不振、呼吸困難を訴え受診したところ、重症の尿毒症のため入院となった。血液検査の結果は以下のとおりであった。

検査値:体表面積未補正eGFR 14.6mL/min、HbA1c 7.7%(NGSP値)、ALT 14IU/L、AST 22IU/L

お薬手帳を確認したところ、以下の薬剤が処方されていた。尿毒症の治療を開始するとともに、退院に向けて本剤を中止し、代替薬を検討することになった。

問264

カンファレンスにおいて薬剤師は、体表面積未補正eGFRが異なる2つの群に対し、メトホルミン塩酸塩錠500mgを経口単回投与した時の腎クリアランス及び血中濃度時間曲線下面積(AUC)をまとめた表を示した。表に基づいた説明として、適切なのはどれか。2つ選べ。ただし、いずれの群も、メトホルミンのバイオアベイラビリティは60%とし、血漿タンパク結合は無視できるものとする。

  1. メトホルミンは、主に糸球体ろ過によって腎臓から排泄されます。
  2. この患者におけるメトホルミンの全身クリアランスは、約170mL/minと予想されます。
  3. この患者におけるメトホルミンの尿中排泄率は、腎機能正常者の約1/3と予想されます。
  4. 処方どおりに服用し続けた場合、この患者におけるメトホルミンの平均血中濃度は腎機能正常者の約3倍になると予想されます。
  5. この患者が処方どおりに服用し続けた場合、メトホルミンの平均血中濃度は約10μg/mLと予想されます。

問265

この患者がメトホルミンを処方どおりに服用し続けた場合、起こり得る副作用とその機序の組合せとして、正しいのはどれか。1つ選べ。

  •   副作用            機序
  1. 低血糖       小腸粘膜のa−グルコシダーゼの阻害
  2. 浮腫        腎でのNa+再吸収の促進
  3. 脱水        腎のNa+/グルコース共輸送体の阻害
  4. 低血糖       ジペプチジルペプチダーゼ−4(DPP−4)の阻害
  5. 乳酸アシドーシス  AMP活性化キナーゼの活性化による糖新生の抑制

問266

代替薬を提案するにあたり、医薬品インタビューフォームから得られた情報を参考に、薬剤師は候補薬のリストを作成した。リストの内容に基づいて提案する薬剤として、最も適切なのはどれか。1つ選べ。

  1. ピオグリタゾン錠
  2. ナテグリニド錠
  3. グリメピリド錠
  4. シタグリプチン錠
  5. リナグリプチン錠

問267

前問で選んだ薬剤について、薬剤師が患者に行う説明として最も適切なのはどれか。1つ選べ。

  1. 尿に糖を出す薬です。
  2. 消化管からの糖の吸収を抑える薬です。
  3. インスリンの分解を抑える薬です。
  4. 肝臓で糖ができるのを抑える薬です。
  5. 血糖値に応じてインスリンの分泌を促進する薬です。

 

 

 

 

 

正解.
問264:2, 4
問265:5
問266:5
問267:5

 解 説     

問264

選択肢 1 ですが
メトホルミンの排泄には、尿細管への分泌が大きく寄与することが知られています。「主に糸球体ろ過」ではありません。よって、選択肢 1 は誤りです。

選択肢 2 は妥当な記述です。
AUC と CL の関係は 「全身 CL  = D/AUC」 です。これは基本知識です。この患者の eGFR は低いので、下の行を使います。D は 500mg で、バイオアベイラビリティが 60% なので、500 × 0.6 = 300 です。AUC は 1800 mg・min/L なので 300/1800 です。クリアランスの単位が mL/min なので、分母を 1800 → 1.8 にして計算すれば 約 170 です。

選択肢 3 ですが
尿中排泄率とは、全身 CL における、腎クリアランスの割合です。腎機能正常群と 低下群を比べた時、まず全身クリアランスが 300/600 → 300/1800 と、1/3 におちていることがわかります。( 「全身 CL  = D/AUC」 です。)

そして、腎クリアランスも 475 → 145 なので、大体 1/3 におちています。すると全体も、腎クリアランスも ほぼ 1/3 なので、占める割合はほぼ変化していないと考えられます。(適当な数値例としては、90/300 → 30/100 みたいな変化ということです。分母・分子が共に 1/3 になっているので、結局割合は変化していません。)よって、選択肢 3 は誤りです。

選択肢 4 は妥当な記述です。
「Css = (D/τ)/全身CL」 です。定常状態の血中濃度に関するこの公式は超頻出基礎知識です。全身 CL が 1/3 なので、Css は約 3 倍と予想されます。

選択肢 5 ですが
「Css = (D/τ)/全身CL」 です。 D = 300mg、τ = 12h、全身 CL 170mL/min を代入して計算します。

1mg = 1000 μg なので 1000/408 です。明らかに 「約10μg/mL」ではありません。よって、選択肢 5 は誤りです。

以上より、問264 の正解は 2,4 です。

問265

メトホルミンの代表的な副作用は乳酸アシドーシスです。メトホルミンの作用機序は、AMP 依存性プロテインキナーゼを活性化し肝臓での糖新生を抑制です。

以上より、問265 の正解は 5 です。

問266

腎機能が相当落ちていることから、未変化体、代謝物も含めて、最も腎排泄されないものを選択肢して提案すべきと考えられます。表よりリナグリプチンが適切です。

以上より、正解は 5 です。

問267

リナグリプチンは、◯◯グリプチンなので、DPP-4選択的阻害薬です。DPP-4 は、腸管ホルモンであるインクレチンというホルモンを不活化するような酵素(セリンプロテアーゼ)です。この DPP-4 を阻害することによりインクレチンの働きを間接的に助けることでインスリン分泌が促進されます。

この薬の特徴として、インスリン分泌の調節が、グルコース濃度依存的に行われるという点が上げられます。すなわち、高血糖の時のみ、この薬は作用するのです。糖尿病治療薬につきものであった副作用である低血糖が起こりにくい薬としてDPP-4 阻害薬は知られています。

以上より、問 267 の正解は 5 です。

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