問 題
54歳男性。既往歴なし。咳と嗄声が継続していたが、血痰を認めたため近医を受診した。胸部X線で右肺腫瘤を指摘され、総合病院呼吸器内科を紹介受診した。
精査の結果 cT2N3M1b Stage Ⅳ A の非小細胞肺がん(腺がん)と診断された。
パフォーマンスステータス (PS) 1。治療薬選択にあたり、遺伝子検査が実施された。EGFR 遺伝子変異 (陰性)、ALK 遺伝子転座 (陰性)、ROS1 遺伝子転座 (陽性)、BRAF 遺伝子変異 (陰性)、PDL-1 ≧ 50%。
患者に喫煙歴はなく、機会飲酒のみ。就学中の子供がいるため、外来通院治療を希望している。
問296
この患者の一次治療薬として、適切なのはどれか。2 つ選べ。
- エルロチニブ
- クリゾチニブ
- ゲフィチニブ
- ペムブロリズマブ
- アレクチニブ
問297
この患者の病態及び治療に関する記述のうち、適切なのはどれか。2 つ選べ。
- 腫瘍マーカーの PSA が上昇している。
- 他臓器への遠隔転移がある。
- 子孫に遺伝する変異が検出された。
- 子供と一緒に散歩することができる。
- 手術による根治が可能である。
正解.
問296:2, 4
問297:2, 4
解 説
問296
選択肢 1 ですが
エルロチニブ(®タルセバ)は、EGFR チロシンキナーゼ阻害剤です。(105-266267)。EGFR 陰性なので、適切ではありません。選択肢 1 は誤りです。
選択肢 2 は妥当です。
クリゾチニブ(®ザーコリ)は、ALK 融合蛋白または ROS1融合蛋白のチロシンキナーゼ阻害薬です。非小細胞肺がんに用いられる薬です。ROS1 陽性なので、妥当です。
選択肢 3 ですが
ゲフィチニブ(®イレッサ)は、上皮成長因子受容体(EGFR)のチロシンキナーゼを選択的に阻害する低分子抗がん剤です。非小細胞肺がんに対する治療薬として使用されます。EGFR 遺伝子変異陽性であることを確認した上で用いる薬です。代表的副作用は間質性肺炎などです。(105-218219)。
選択肢 4 は妥当です。
ペムブロリズマブ(®キイトルーダ)は、ヒト化抗ヒト PD-1 モノクローナル抗体です。
選択肢 5 ですが
アレクチニブ(®アレセンサ)は、ALK 阻害薬です。ALK 陰性なので、適切ではありません。選択肢 5 は誤りです。
以上より、問 296 の正解は 2,4 です。
問297
選択肢 1 ですが
PSA が上昇するのは、前立腺がんです。選択肢 1 は誤りです。
選択肢 2 は妥当です。
精査の結果 cT2N3M1b ・・・とあります。これは肺がんの進行度合い(病期、ステージ)を表す TNM 分類です。M は、遠隔転移があるかどうかです。遠隔転移がなければ M0 です。あれば M1 に分類されます。(99-300301)。M1 とあるので、他臓器への遠隔転移があると読み取れます。
選択肢 3 ですが
検出された変異は ROS1 です。細胞は大きく2つに分けると、体細胞と生殖細胞に分かれます。(参考 薬学基礎 生物学 減数分裂)。子孫に遺伝する変異 というのは、生殖細胞における変異と考えられます。肺がんの話なので、検出された変異は体細胞における変異です。子孫に遺伝する変異ではないと考えられます。選択肢 3 は誤りです。
選択肢 4 は妥当です。
パフォーマンスステータスが与えられており、PS 1 とあります。PS とは、Peformance Status の略です。PS1 であれば、肉体的に激しい活動は制限されるが、歩行可能、軽作業や座っての作業は可能です。数値が大きくなるほど、制限が大きい状態です。(106-338)子どもとの散歩は可能と考えられます。
選択肢 5 ですが
遠隔転移があるため、手術での根治は期待できないと考えられます。選択肢 5 は誤りです。
以上より、問297 の正解は 2,4 です。
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