107回薬剤師国家試験 問156-157解説

 問 題     

22歳女性。近医を受診し、以下の経過を訴えたところ、精神科を紹介された。

「仕事が多忙で残業が続いていたある日、通勤時に電車内で突然動悸が始まり、呼吸困難となり、今にも心臓が止まりそうになり、やっとの思いで次の駅で降りて救急車で病院へ運ばれたが、病院に着く頃には症状はだいぶ落ちついていた。

念のため、診察を受けたが身体的には異常はなく、心電図や血液検査でも異常は認められなかった。

1週間後、外出した時に、乗っていた電車の中で同じような動悸が始まり、一緒にいた友人に手を握ってもらって何とか我慢して家までたどり着いた。それ以来、発作が怖くて電車に乗れなくなった。電車通勤はやめて親に送り迎えをしてもらい、どうにか仕事には行くことができている。」

問156

この疾患の病態と治療に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。

  1. 薬物治療は原則として一生涯続ける。
  2. 発作と判断するには、それが起こる状況の特定が必要である。
  3. 予期不安を合併する場合が多い。
  4. 恐怖の対象となっている場所や状況に対する曝露療法が有効である。
  5. 呼吸困難に対して、酸素の投与が必要である。

問157

この患者の治療に用いられる可能性のある薬物に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。

  1. ロラゼパムは、γ-アミノ酪酸GABAA受容体複合体のベンゾジアゼピン結合部位に結合して、抗不安作用を示す。
  2. セルトラリンは、アドレナリンβ1受容体を遮断して、発作時の自律神経症状を改善する。
  3. エチゾラムは、中枢のヒスタミンH1受容体を選択的に遮断して、静穏作用を示す。
  4. アルプラゾラムは、セロトニン5-HT1A受容体を刺激して、不安、焦燥、睡眠障害を改善する。
  5. パロキセチンは、セロトニンの再取り込みを選択的に阻害して、抑うつ状態を改善する。

 

 

 

 

 

正解.
問156:3, 4
問157:1, 5

 解 説     

問156

104-62 をふまえ、パニック障害を念頭においた問題と判断したい リード文です。それをふまえて各選択肢を検討します。

選択肢 1 ですが
「薬物治療が原則として一生続く」というのは違和感を覚えたのではないでしょうか。十分な効果が見られたら、その量を数ヶ月程度維持し、症状再燃がなければ、さらに数ヶ月程度を目安に漸減中止する といった流れが一例となります。選択肢 1 は誤りです。

選択肢 2 ですが
激しい動悸や、震え、発汗などが見られ、急激に起き、急激におさまる のが発作です。「状況の特定が必要」というわけではありません。選択肢 2 は誤りです。

選択肢 3,4 は妥当です。
予期不安とは、発作が起こるかもしれない という不安です。

選択肢 5 ですが
パニック発作では「息苦しい、息をもっと吸わないと」ということで過呼吸が起きます。そのため、酸素投与は逆効果で、必要ありません。選択肢 5 は誤りです。

以上より、問 156 の正解は 3,4 です。

問157

選択肢 1 は妥当です。
ロラゼパムについての記述です。

選択肢 2 ですが
セルトラリン(ジェイゾロフト)は SSRI です。セロトニンの再取り込みを選択的に阻害します。「アドレナリン β1 受容体を遮断」ではありません。選択肢 2 は誤りです。

選択肢 3,4 ですが
エチゾラム(デパス)、アルプラゾラムは 共に Bz(ベンゾジアゼピン) 系の薬です。Bz 系は、GABA A 受容体に含まれる「Bz 受容体」と呼ばれる部分に結合し、GABAA 受容体機能を亢進し、GABA 作用を増強することで効果を示します。「ヒスタミン H1 受容体を選択的に遮断」や「セロトニン 5-HT1A 受容体を刺激」ではありません。選択肢 3,4 は誤りです。

選択肢 5 は妥当です。
パロキセチンは、SSRI です。

以上より、問 157 の正解は 1,5 です。

参考 薬理学まとめ 代表的な精神疾患の治療薬

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