薬剤師国家試験 第100回 問322-323 過去問解説

 問 題     

30歳女性。片頭痛のためリザトリプタン安息香酸塩錠(以下「薬剤1」とする)が処方され、保険薬局を訪れた。この女性の姉(32歳)も昨年より片頭痛のため、当薬局からクリアミン配合錠A 1.0(以下「薬剤2」とする)の投薬を受けている。今日は付き添いで一緒に来局した。

注) 薬剤2:エルゴタミン酒石酸塩・無水カフェイン・イソプロピルアンチピリン配合錠

問322

この姉妹から、これらの薬について説明を求められた。薬剤師が行った説明の中で適切でないのはどれか。1つ選べ。

  1. 薬剤1は、定期的に服用して下さい。
  2. 薬剤1は、服用しても痛みが治まらない時は、2時間以上あければ追加して服用できます。
  3. 薬剤2は、片頭痛の予兆や前兆が現れた時にも服用してください。
  4. 薬剤2は、妊婦又は妊娠している可能性のある女性は服用できません。
  5. 姉妹間での薬のやり取りはしないで下さい。

問323

これらの2つの薬剤の効果と費用はいずれも異なっている。薬剤師は、エルゴタミンを含む配合剤に対するリザトリプタン安息香酸塩錠の費用対効果を評価した資料を調べた。この資料では、質調整生存年(QALY)を用いた効果の期待値と費用の期待値から増分費用効果比が算出されていた。

この薬剤経済分析の手法として最も適切なのはどれか。1つ選べ。

  1. 費用最小化分析
  2. 費用効果分析
  3. 費用効用分析
  4. 費用便益分析
  5. 費用感度分析

 

 

 

 

 

正解.
問322:1
問323:3

 解 説     

問322

選択肢 1 ですが
リザトリプタンは、5 – HT1B/1D 受容体作動薬です。頭痛発生時に用いる片頭痛治療薬です。予防薬ではなく、定期的に服用する薬ではありません。よって、選択肢 1 は誤りです。

その他の選択肢 は、正しい選択肢です。

ちなみに、選択肢 4 ですが
エルゴタミンは、おなかの赤ちゃんの血流を悪くしたり流産の原因にもなりかねないため、服用できません。さらに、授乳中も控えます。

以下 雑感—–
この点、トリプタン系の偏頭痛治療薬は治療上の便益を考慮した上で、使用が可能です。妊婦であるから、頭痛薬が飲めない、というのは、ただでさえ体の変化で不安も多いと思われる中、心細いことだと思われます。

同じ疾患において、異なる作用機序の薬が複数あり、選択肢が存在する、ということが医療におけるすばらしい豊かさ であり、そのような選択肢を増やしていく「創薬」を行っているのが世界でも、数カ国である、ということに思いをはせた時、創薬を行うことができているこの国で
薬学を学ぶことができる ということが、どれだけ人の幸せに貢献しうることにつながることなのか、と驚きます。

また、薬剤師として実際の現場で患者さんと接する時に、せっかくの豊かさを100%目の前の患者さんのために活用し薬の適正使用を実現できるかどうかは、薬剤師の知見、能力に大きく左右される、ということもこうした問題から感じることができるのではないか と考えられます。)以上 雑感—–

また、選択肢 5 に関連してですが
本症例のような、家族で同じ症状に対する異なる薬を服用している例としては、他にも、降圧薬や高血糖治療薬など様々なケースが考えられます。家族間でのやり取りを、絶対に行わないように意識して、定期的に指導することはとても重要といえます。

問323

QALY を用いている、という点から費用効用分析である、とわかります。

以上より、正解は 3 です。

ちなみに、選択肢 1 ですが
費用最小化分析とは、治療効果が同等である複数の治療法の中で、発生する費用を比較する方法です。例としては、先発薬と後発薬の比較や、注射と内服などの剤形が異なる薬の比較で用いられます。効果の期待値が用いられていることから治療効果が同等ではないと考えられます。よって、選択肢 1 は誤りです。

選択肢 2 ですが
費用効果分析は、複数の治療法があった時に、治療によるアウトカム(例として、生存率など)を評価して治療によって発生する費用と比較する分析手法です。費用効果分析の中で、効果の指標として質調整生存年(QALY)を用いたものが特に、費用効用分析と呼ばれます。そのため、選択肢 2 は、誤りではありませんが最も適切とはいえません。よって、選択肢 2 は誤りです。

選択肢 4 ですが
費用便益分析は、効果を全て金銭価値に置き替える評価方法です。質調整生存年という、金銭価値以外を効果指標に用いている点から誤りであると判断できます。

選択肢 5 ですが
感度分析とは、ある変数が変化した時にどれぐらい結果に影響するかを分析するということです。費用や効果を数値化する際、ある程度幅のある数値を用います。また、発症率のような確率を用いるものもあります。このような、変動する可能性のある値をいろいろと変化させてみることで分析の妥当性を評価するのが、感度分析です。本問では、値を変化させていない点から誤りであると判断できます。

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