公務員試験 H30年 国家一般職(行政) No.4解説

 問 題     

政党間関係に関する次の記述のうち,妥当なのはどれか。

1.G.サルトーリは 1970 年代,政党の数と政権交代の回数という二つの基準を用いて,政党システムの分類を行った。その類型の一つである「穏健な多党制(限定的多党制)」は,複数の政党が民主的選挙で競争している一方,結果として特定の一政党が選挙に勝利し続けるため,政権交代が長期間行われない政党システムを指す。

2.S.リプセットとS.ロッカンは 1960 年代に国際比較研究を行い,欧州諸国の政党システムが,第二次世界大戦の結果として形成された社会的亀裂構造に強く規定されていることを示した。長期にわたって安定していた各国の政党システムが,1940 年代以降になって流動化したとするリプセットらの主張は「解凍仮説」と呼ばれる。

3.M.デュヴェルジェは,「小選挙区制は二大政党制に,比例代表制は多党制につながる」とする法則を提示した。彼は,小選挙区制が二党化を促すメカニズムとして,「機械的要因」と「心理的要因」を挙げる。後者は,各選挙区で当選可能性の低い第3 党以下の候補者が,有権者の戦略的な投票の結果,淘汰されることをいう。

4.議会の過半数議席が得られる政党連合の組合せのうち,政党間の政策的距離が最小である連合政権を,W.ライカーは「最小勝利連合」と呼んだ。この考え方では,各政党は政権の獲得とともに政策の実現を目指すことが前提とされている。連合政権を構成する政党のうち,政策的に中間的な立場をとるものを「要(かなめ)政党」という。

5.R.カッツとP.メアは,1970 年代以降の欧州諸国において,「カルテル政党」と呼ばれるタイプの政党が選挙に新規参入し,既成政党と競合するようになったと主張した。カルテル政党は,既成政党の活動資金が国家からの助成金に依存していることを批判し,そうした既得権益の打破を主張することで選挙での得票を伸ばした。

 

 

 

 

 

正解 (3)

 解 説     

選択肢 1 ですが
サルトーリは、政党システムを「一党制、二党制、多党制」の3つにまず大別しました。そして、多党制をさらに、一党優位政党制とそれ以外に分類し、さらに細かく多党制を「穏健な多党制、分極された多党制、原子化された多党制」と3分類しています。「政党の数」は妥当ですが、「政権交代の回数」という基準で分類したわけではありません。選択肢 1 は誤りです。(参考 H26no4)

選択肢 2 ですが
前半部分は妥当です。リプセットとロッカンは、欧州諸国の政党システムが、歴史的に形成された社会的亀裂(クリーヴィッチ)構造に強く規定されていることを示しました。そして、1960 年代までのヨーロッパ各国の政党システムが「凍結」しているという「凍結仮説」を提唱しました。「1940 年代以降になって流動化したとする・・・「解凍仮説」」を主張したわけではありません。選択肢 2 は誤りです。

選択肢 3 は妥当です。
デュヴェルジェの法則についての記述です。(参考 H26no4)。

選択肢 4 ですが
経済学的な効用計算を、選挙の投票参加に適用したのが、数理政治学者ライカーとオーデシュックです。ライカーの最小勝利連合とは、連合を構成するメンバーの1つでも欠けると、勝利(多数派を形成)することができないような最小数のメンバーで構成されている連合のことです。政党間の政策的距離が最小である連合は「最小距離連合」です。選択肢 4 は誤りです。(参考 H26no4)。

選択肢 5 ですが
カッツとメアによれば、政党は現代的になるほど市民社会から疎遠になり、国家に内部化されていく、という傾向をたどります。そして、カッツとメアが、現代的到達段階と見たのが「カルテル政党」です。

「カルテル」とは、企業の独占形態の一つです。同種の生産にしたがう企業家が、企業の独立性を保ちながら連合し、自由競争をさけ、市場を独占、価格維持して利益の増進をはかることです。競争がなくなり、非効率な企業が温存されるため、厳しい規制対象となります。同様に、社会基盤を失った政党が、ただ選挙市場で既得権をもった独占者として生き延びているという現状が「カルテル政党」と呼ばれる状態です。「既得権益の打破を主張することで選挙での得票を伸ばした」わけではありません。選択肢 5 は誤りです。(参考 H26no4)。

以上より、正解は 3 です。

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