公務員試験 H30年 国家一般職(行政) No.3解説

 問 題     

政治と文化多様性に関する次の記述のうち,妥当なのはどれか。

1.J.ロックは,16 世紀半ばから17 世紀半ばにかけてのヨーロッパにおける宗教的対立による内乱や戦争の経験を踏まえ,異なる信仰や価値観を持つ者同士が,一つの社会において互いの内面の自由を尊重し合う寛容の精神を持ち,共存することは一切不可能だと考えた。そのため,宗派ごとに異なる国家を樹立することによって,悲惨な争いを回避すべきだと主張した。

2.A.レイプハルトは,オランダやベルギーといったヨーロッパの小国では,宗教的・言語的に多元的な下位文化が存在しており,それぞれの下位文化を代表する勢力の間での合意形成ができず,政治的対立が強まっていると指摘した。そして,安定した政治体制を実現するには,合意型民主主義よりも,英国のような,多数派の意思実現に重きを置く多数決型民主主義のほうが優れているとした。

3.E.サイードは,その著書である『オリエンタリズム』において,文化的・人種的な優越性に基づく東洋的な視点で西洋を見ることを批判した。そして,東洋文明における親族や神話のシステムにも西洋文明と同型の構造が隠されており,東洋文明もまた一つの理性的な思考体系を有していると指摘した。

4.S.ハンティントンによれば,ポスト冷戦の世界における対立は,諸文明の間で文化的な問題をめぐって起きるのではなく,国民国家を単位としてイデオロギーや経済をめぐって起きる。彼は,文化の共通性よりも相違性,融合よりも対立の側面に注目する「文明の衝突」論を批判した。

5.C.テイラーによれば,アイデンティティとは「ある人々が誰であるかについての理解」であり,その一部は,他人による承認,その不在,あるいはゆがめられた承認によって形成される。彼は,少数派の集団に属する人々が,しばしば自分たちが適切に承認されていないと感じ,そのアイデンティティや多数派との差異を政治の場で認めさせようとすることを指摘した。

 

 

 

 

 

正解 (5)

 解 説     

選択肢 1 ですが
ロックは、過ちを犯しやすい人間像を前提とし、宗教的寛容論を唱えました。「みんな間違えてるかもしれないから、とりあえずお互い尊重し合うといいんじゃないかな」といったイメージで考えると想像しやすいかと思います。「共存することは一切不可能だと考えた」わけではありません。選択肢 1 は誤りです。

選択肢 2 ですが
レイプハルトは民主主義を「多数決型」と「合意形成型」に類型化しました。そして、多元社会においては、多数決型デモクラシーよりも合意型デモクラシーがふさわしいとし、その典型としてスイスやベルギーを挙げました。「多元的な下位文化が存在しており・・・安定・・・・実現するには・・・多数決型」と論じたわけではありません。選択肢 2 は誤りです。(H27no1)。

選択肢 3 ですが
サイードはオリエンタリズムの理論で最もよく知られています。オリエンタリズムとは、西洋の東洋に対する思考様式です。複数の意味を有しますが、「西洋が東洋を見る視点」に潜む優越性を指摘し、批判的に検討したといえます。「東洋的な視点で西洋を見ることを批判」したわけではありません。選択肢 3 は誤りです。

選択肢 4 ですが
ハンティントンは著書『文明の衝突』において、諸文明間で文化的な問題をめぐって対立がおきると考えました。「文明の衝突」論の提唱者であり、批判したわけではありません。選択肢 4 は誤りです。

選択肢 5 は妥当です。
テイラーによるアイデンティティについての指摘に関する記述です。

以上より、正解は 5 です。

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