公務員試験 H29年 法務省専門職員 No.6解説

 問 題     

自尊感情や自己高揚に関する記述として最も妥当なのはどれか。

1.心身の健康や社会的適応の良好さ,学業や仕事の成績等と自尊感情との間には正の相関関係があり,攻撃行動や反社会的行動等と自尊感情との間には負の相関関係があることが一貫して示されている。こうした知見から,健康な人格の発達や,非行等の問題行動の防止のために,自尊感情を高めることが推奨されている。

2.マーカス(Markus, H. R.)と北山は,文化的自己観を,日本等の東アジア諸国で優勢な相互協調的自己観と,欧米諸国で優勢な相互独立的自己観に区別し,ある文化圏での研究知見は,異なる文化圏では必ずしも妥当性を持たないことを主張した。例えば,文化的自己観が異なる東アジア人と欧米人では,自己高揚傾向の持ち方が異なるという報告がある。

3.自尊感情は,質問紙検査で測定できる顕在的自尊感情と測定できない潜在的自尊感情に分けられる。ボッソン(Bosson, J. K.)らは,自己愛傾向が強い人は,謙虚な態度という「マスク」では覆い隠せないほど潜在的自尊感情が高いというマスク・モデルを提唱し,その中で,自己愛傾向が強い人は,誇大で万能的な自己認識を確証しようとして自己高揚的な行動を取ると考えた。

4.グリーンバーグ(Greenberg, J.)らが提唱した存在脅威管理理論では,人は,死の脅威に対する不安を和らげるために,自分の死後も存在する文化の中において価値ある存在として自己を位置付けるのではなく,眼前の人に価値ある存在として認められようとするとされている。グリーンバーグらは,眼前の人にとって価値ある存在であるという感覚が自尊感情であると考えた。

5.レアリー(Leary, M. R.)らは,集団の成員間の感情的結合を測定する手法としてソシオメーターを考案した。例えば,ソシオメーターにより,学級内の仲良しグループやいずれのグループにも属しない孤立児,最も人気のある児童などが明らかになり,各児童の自尊感情の状態を把握することができる。

 

 

 

 

 

正解 (2)

 解 説     

選択肢 1 ですが
自尊感情と、良好な性質、社会的に好まれない性質との相関関係については、評価が揺れています。「一貫して示されている」わけではありません。『一貫して』という部分に違和感を持ち、妥当でないと判断したい選択肢です。選択肢 1 は誤りと考えられます。

選択肢 2 は妥当です。
マーカスと北山の文化的自己観についての記述です。

選択肢 3 ですが
マスクモデルとは「誇大な自己像が、潜在的・無意識的自己無価値感を覆い隠す役割をもつ」という考え方です。「謙虚なマスクで隠せないほど自尊感情が高い」というモデルではありません。選択肢 3 は誤りです。

選択肢 4 ですが
「死の脅威に対する不安を和らげる」ために「自分が死んだ後も残り続ける自分の所属集団や文化を守ろうとする」と考えるのが存在脅威管理理論です。「眼前の人に価値ある存在として認められようとする」わけではありません。選択肢 4 は誤りです。

選択肢 5 ですが
ソシオメータ理論は「自尊感情が自己が周囲の世界において現在どのような状態にあるかを測り自分に知らせるためのメーター(測定器)である」とした理論です。従って「ソシオメータ=集団の成員間の感情的結合の測定手法」というわけではありません。記述は、モレノらによって体系づけられた「ソシオメトリー」についてと考えられます。選択肢 5 は誤りです。

以上より、正解は 2 です。

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