公務員試験 H29年 法務省専門職員 No.5解説

 問 題     

自己認知に関する記述ア〜エのうち,妥当なもののみを全て挙げているのはどれか。

ア.自己概念とは,自らが自己を対象(客体)として把握した概念である。ジェームズ(James,W.)は,自己を知るという観点から自己を「知る者としての自己(self as knower)」又は「主我(I)」と「知られる者としての自己(self as known)」又は「客我(me)」の二つに分類し,後者について,更に「物質的自己」,「社会的自己」,「精神的自己」の三つの領域に分類した。

イ.自己効力感とは,自分が行為の主体であり,自分の行為が自己の統制下にあり,外界の要請に応じて適切な対応を生み出しているという確信や感覚である。バンデューラ(Bandura, A.)は,自己効力感は実際の成功経験によって形成されるのであり,他者の行動を観察するなどの代理経験では形成されないとした。

ウ.フェニグスタインら(Fenigstein, A. et al., 1975)は,自己意識を自己に注意を向けやすい性格特性と定義した。この自己意識には,公的自己意識と私的自己意識の二つの側面があり,公的自己意識の高い人は自分を分析し,自己の感情や思考を内的基準に合わせることで,公的に一貫した自己として見られようとする傾向があるとされる。

エ.現実自己が理想自己や当為自己と食い違っている場合,ネガティブな感情が生起する。ヒギンズ(Higgins, E. T., 1987)は,そのようなずれをセルフ・ディスクレパンシーと呼び,比較する自己の違いにより生じるネガティブな感情の質が異なると考えた。例えば,現実自己と当為自己とのずれが大きい場合は,肯定的な結果が得られないことを意味するため,落胆や失望感情を経験しやすいとした。

1.ア
2.ウ
3.ア,イ
4.イ,エ
5.ウ,エ

 

 

 

 

 

正解 (1)

 解 説     

記述 ア は妥当です。
ジェームズによる自己の分類です。自己を大きく、主我と客我に分類し、客我を更に3つに分類しました。

記述 イ ですが
自己効力感とは、自分がある状況において、必要な行動をうまく遂行できると、自分の可能性を認知していることです。バンデューラによって提唱されました。自己効力感を生み出す基礎となるのは、実際の成功経験や、言語的経験、酒などによる生理的情緒的高揚などに加え、想像的体験や、代理経験などがあげられています。「あいつができたんなら、私にもできるな」という経験は、実体験として思い浮かぶのではないでしょうか。記述 イ は誤りです。

記述 ウ ですが
自己意識の定義、及び2つの分類については妥当です。そして、公的自己意識は「外から見られる自分」であり、容姿やふるまいについての自己意識です。「自己の感情や思考を内的基準に合わせることで・・・」という記述は「私的自己意識」についての記述と考えられます。記述 ウ は誤りです。

記述 エ ですが
ヒギンズのセルフディスクレパンシー理論(自己不一致理論)についてです。(参考 H28no26)。当為自己とは「あるべき自己像」です。当為自己と現実自己との差異は、義務や責任だと感じていることを実現できていないことから、何らかの制裁と結び付き、恐怖や緊張などが生じるとされています。後半の記述は理想自己と現実自己のずれが大きい場合についての記述と考えられます。記述 エ は誤りです。

以上より、正解は 1 です。

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