公務員試験 H29年 国家一般職(行政) No.15解説

 問 題     

財政に関するア〜オの記述のうち,妥当なもののみを全て挙げているのはどれか。

ア.市町村が行う国民健康保険の保険料は,被保険者が保険給付を受け得ることに対する反対給付として徴収されるものであり,また,国民健康保険が強制加入とされ,保険料が強制徴収されるのは,社会保険としての国民健康保険の目的や性質に由来するものというべきであるから,当該保険料に租税法律主義を定める憲法第84 条が直接適用されることはないとするのが判例である。

イ.法律上は課税できる物品であるにもかかわらず,実際上は非課税として取り扱われてきた物品を,通達によって新たに課税物件として取り扱う場合,課税が通達を機縁として行われたものであっても,通達の内容が法の正しい解釈に合致するものであれば違憲ではないとするのが判例である。

ウ.予算と法律は,憲法上それぞれ異なる手続を経て成立するものとされているため,「予算は成立したのにその支出を認める法律が制定されない」といった不一致の状態も生じ得るが,このような場合は,内閣は法律案を提出して国会の議決を求め,国会はその法律を制定する義務を負うと一般に解されている。

エ.憲法第89 条にいう「宗教上の組織若しくは団体」とは,宗教と何らかの関わり合いのある行為をしている組織又は団体の全てを意味するため,戦没者遺族会は特定の宗教の信仰,礼拝又は普及等の宗教的活動を行うことが本来の目的ではない団体であるとしても,これに対する公金の支出は違憲であるとするのが判例である。

オ.憲法第89 条にいう「公の支配」の解釈については,事業の根本的方向に重大な影響を及ぼす権力を有することと解する説や,国等の一定の監督が及んでいることをもって足りるとする説などがあるが,前者の説によれば,監督官庁が業務や会計の状況に関する報告を徴する程度の監督権を持っていれば,その事業に対する助成は合憲と解釈することになる。

1.オ
2.ア,イ
3.イ,エ
4.ウ,エ
5.ア,イ,オ

 

 

 

 

 

正解 (2)

 解 説     

記述 ア は妥当です。
旭川市国民健康保険条例訴訟です。(最大判 H18.3.1)。

記述 イ は妥当です。
通達課税違憲訴訟の判例です。(最判 S33.3.28)。

記述 ウ ですが
予算法律不一致の場合、国会が予算に合わせて法律を制定する義務はないと解されています。ちなみに、逆に予算が必要な法律が先にあり、予算がない場合は、内閣は法律に合わせて、予算を手当し、法律を執行する義務を負うとされています。記述 ウ は誤りです。

記述 エ ですが
箕面忠魂碑・慰霊祭訴訟の判例(最判 H5.2.16) によれば、憲法 89 条の宗教上の組織若しくは団体とは、特定の宗教の信仰、礼拝または普及等の宗教的活動を本来の目的とする組織ないし団体をさします。「宗教と何らかの関わり合いのある行為をしている組織又は団体の全て」ではありません。そして、遺族会は主たる目的が戦没者遺族の相互扶助・福祉向上と、英霊の顕彰です。従って、宗教上の組織若しくは団体にあたりません。記述 エ は誤りです。

記述 オ ですが
「監督官庁が業務や会計の状況に関する報告を徴する程度の監督権」は、記述 オ 前半における「国等の一定の監督が及んでいることをもって足りるとする説」と対応しています。従って、これは「後者の説」です。「前者の説」ではありません。記述 オ は誤りです。

以上より、正解は 2 です。

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