公務員試験 H29年 国家一般職(行政) No.3解説

 問 題     

福祉国家と政治に関する次の記述のうち,妥当なのはどれか。

1.F.ハイエクは,計画主義的思考は歴史の過程において自生的に形成されてきた秩序を強化し,人間の多様性や自由を抑圧から解放するものであると主張した。そして,J.M.ケインズの経済理論に基づく社会保障制度の充実や所得の再分配を支持した。

2.社会保障を支える仕組みは,その財源に注目すると,大きく公的扶助と社会保険の二つに分けられる。公的扶助は,通常は資力調査を行わずに全ての困窮者に等しく与えられる普遍主義の考え方による仕組みであり,我が国では生活保護,老人福祉,児童手当等の制度が該当する。この公的扶助制度を世界で初めて政策的に導入したのは,ドイツのビスマルクである。

3.G.エスピン=アンデルセンは,福祉国家を「脱商品化の指標」と「階層化の指標」を用いて,三つに分類した。すなわち,フランス,ドイツ,イタリア等に代表される自由主義型,米国,カナダ,オーストラリア等に代表される保守主義型,スウェーデン,ノルウェー,オランダ等に代表される社会民主主義型の三類型である。

4.第二次世界大戦後に取りまとめられたベヴァリッジ報告では,保険料の負担を伴う社会保険ではなく,国庫負担により所得保障を行う公的扶助と任意保険の二つを組み合わせることによって,国民の窮乏を克服することなどが提言された。同報告は,ナショナル・ミニマムを保障しようというものであり,福祉国家の先進的なモデルとして高い評価を得た。

5.我が国においては,戦後,生活保護法が制定され,さらにその後,国民健康保険法の全面改正や国民年金法の制定が行われて,国民皆保険・皆年金が実現した。1973 年には老人医療費を無料とする制度が導入されるなど,同年は福祉元年とも呼ばれ,この時期に社会保障制度は大きく拡充された。

 

 

 

 

 

正解 (5)

 解 説     

選択肢 1 ですが
ハイエクは計画主義的志向は、社会主義経済学やケインズ経済学を生み出した思想的基盤であり、これこそが自主的秩序を徒に破壊し、多様性や自由を抑圧すると強く批判しました。選択肢 1 は誤りです。

選択肢 2 ですが
世界初の公的扶助制度として、英国のエリザベス救貧法があります。この法律において、富裕者に救貧税が課せられ、働けない人にはお金を支給しました。また、労働能力のある貧困者は作業所に収容し、強制的に労働させられました。軍備拡張に励み、鉄血宰相と呼ばれたドイツのビスマルクは、強制加入社会保険制度の創始者です。

選択肢 3 ですが
一文目は妥当です。エスピン=アンデルセン福祉国家を3つの型に分類しました。1:社会民主主義レジーム、2:保守主義レジーム、3:自由主義レジーム です。これは脱商品化、社会的階層化という2つの指標を用いた分類です。(H27no1)。自由主義レジームの代表がアメリカ、カナダ、オーストラリアです。自由主義型と保守主義型の代表国が逆です。選択肢 3 は誤りです。

選択肢 4 ですが
英国では 1940 年代に W.H.ベヴァリッジが社会保険の原則を示した。そこには、社会保険の対象者を全国民とし,対象者には均一拠出・均一給付を適用する均一主義の原則や、最低生活を保障するナショナル・ミニマムの原則などが含まれていました。これは正に「保険料の負担を伴う社会保険」です。選択肢 4 は誤りです。

選択肢 5 は妥当です。
我が国の社会保障制度についてです。

以上より、正解は 5 です。

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