公務員試験 H29年 国家一般職(行政) No.2解説

 問 題     

政治参加に関する次の記述のうち,妥当なのはどれか。

1.C.ペイトマンは参加民主主義を理論化し,民主政治の立て直しには市民がコミュニティに直接参加し,自らの要求を実現させていくことが重要であり,また,そうした参加は社会への帰属感,政治的な見識,政治的有効感などを高める役割をも果たすとした。

2.R.パットナムは,米国において人々の社会的なつながりや他者への信頼といったいわゆる社会関係資本(social capital)の縮小が政治参加の衰退をもたらしたと論じた。そして,この縮小を補う上で,スポーツ・文化等の団体への加入ではなく,テレビを始めとするマス・メディアへの接触が重要であるとした。

3.W.ライカーとP.オーデシュックは,投票参加から得られる効用は,「自分の一票が選挙結果に及ぼす影響力」と「二つの政党(あるいは候補者)がそれぞれもたらすと期待される効用の差」を足し合わせ,そこから参加のコストを引いたものであるとし,この値が正であれば,その有権者は投票に参加するとした。

4.G.アーモンドとS.ヴァーバは, 5 か国の比較世論調査の結果から,政治文化を「参加型」,「臣民型」,「未分化型」の三つに類型化した上で,「参加型」の典型として米国と旧西ドイツを,「臣民型」の典型として英国とメキシコを,また「未分化型」の典型としてイタリアを挙げた。

5.J.フィシュキンは,討論型世論調査から得られたデータの分析結果から,専門家からの情報提供や他者との討論は市民の政治参加への意欲を高めるが,その一方において,人々の間における意見の対立を先鋭化させることを明らかにし,熟議民主主義(deliberative democracy)の危険性について警鐘を鳴らした。

 

 

 

 

 

正解 (1)

 解 説     

選択肢 1 は妥当な記述です。
ペイトマンの参加民主主義理論についての記述です。

選択肢 2 ですが
パットナムは、米国の共同体の衰退を論じました。ソーシャル・キャピタル(社会資本)概念の提唱者です。社会関係資本の減少に、テレビが深く関与していると指摘しました。「テレビを始めとするマス・メディアへの接触が重要」とは述べていません。選択肢 2 は誤りです。

選択肢 3 ですが
経済学的な効用計算を、選挙の投票参加に適用したのが、数理政治学者ライカーとオーデシュックです。報酬 R = PB ー C + D という方程式を考えました。R が投票により有権者が受け取る見返りです。 B が候補者間の期待効用差、P は自分の投票の主観的価値、C が投票へのコスト、D が市民としての義務感です。(H26no4)。足し合わせるものに「D=市民としての義務感」がないため、選択肢 3 は誤りです。

選択肢 4 ですが
前半部分は妥当です。アーモンドとヴァーバによる政治文化の分類は「未分化型政治文化」、「臣民型政治文化」、「参加型政治文化」の3つです。(H26no3)。後半部分ですが、参加型の代表例が米、英です。臣民型の代表例が独、伊です。未分化型の代表例がメキシコです。正確に覚えていなくても「英とメキシコ」という組み合わせはないと判断したいと考えられます。選択肢 4 は誤りです。

選択肢 5 ですが
フィシュキンは、熟議を通じて市民が問題解決能力を高めると考えました。「熟議民主主義の危険性について警鐘を鳴らした」わけではありません。選択肢 5 は誤りです。

以上より、正解は 1 です。

コメント