公務員試験 H28年 国家一般職(行政) No.30解説

 問 題     

相続に関する ア〜オ の記述のうち,妥当なもののみを全て挙げているのはどれか。ただし,争いのあるものは判例の見解による。

ア.被相続人の子が,相続の開始以前に死亡した場合,又は相続を放棄した場合には,被相続人の子の配偶者及び被相続人の子の子は,被相続人の子を代襲して相続人となることができる。

イ.相続人が相続に関する被相続人の遺言書を破棄又は隠匿した場合において,相続人の当該行為が相続に関して不当な利益を目的とするものでなかったとしても,当該相続人は,民法第 891 条第 5 号所定の相続欠格者に当たる。

ウ.相続人は,自己のために相続の開始があったことを知った時から3 か月以内であれば,一度した相続の承認及び放棄を撤回することができる。

エ.相続人は,遺産の分割までの間は,相続開始時に存した金銭を相続財産として保管している他の相続人に対し,自己の相続分に相当する金銭の支払を請求することはできない。

オ.共同相続人間において遺産分割協議が成立した場合に,相続人の一人が他の相続人に対して当該遺産分割協議において負担した債務を履行しないときであっても,他の相続人は民法第 541 条によって当該遺産分割協議を解除することができない。

1.ア,ウ
2.ア,オ
3.イ,ウ
4.イ,エ
5.エ,オ

(参考) 民法(履行遅滞等による解除権)
第541 条 当事者の一方がその債務を履行しない場合において,相手方が相当の期間を定めてそ
の履行の催告をし,その期間内に履行がないときは,相手方は,契約の解除をすることができる。

(相続人の欠格事由)
第891 条 次に掲げる者は,相続人となることができない。
(第1 号〜第4 号略)
五 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し,変造し,破棄し,又は隠匿した者

 

 

 

 

 

正解 (5)

 解 説     

記述 ア ですが
民法第 887 条により、いわゆる代襲相続を行うのは、「被相続人の子の子」です。「被相続人の子の配偶者」ではありません。記述 ア は誤りです。

記述 イ ですが
判例(最判H9.1.28)によれば、「・・・不当な利益を目的とするものでなかったときは、相続人は、民法 891 条 5 号所定の相続欠格者には当たらないものと解するのが相当」とあります。記述 イ は誤りです。この判例について知らなかったとしても、この記述が正しいとすると、例えば「本当にうっかり遺言書を、家の整理の際捨ててしまった場合」においても相続欠格者に当たることになります。するとそれは酷であると考え、誤りと判断できるのではないでしょうか。

記述 ウ ですが
民法第 919 条により、相続の承認・放棄は、いわゆる熟慮期間と呼ばれる「相続開始を知った時から3ヶ月以内」であっても、撤回できません。ただし、民法の一般規定に基づく無効や取消しはありえます。記述 ウ は誤りです。

記述 エ は妥当です。
最判 H4.4.10 によると、「相続人は、遺産の分割までの間は、相続開始時に存した金銭を相続財産として保管している他の相続人に対して、自己の相続分に相当する金銭の支払を求めることはできないと解するのが相当である」とあります。なんでかっていう疑問がわくと思うんですが、相続の対象といえば、土地、現金、物・・・です。現金は、まぁ一番使いやすい。相続関係者全員の同意なく「自分の分だけ、先に、現金払いで」を認めてしまうと、他の相続人とのバランスが悪いという判断、と考えると理解しやすいのではないかと思います。

記述 オ は妥当です。
最判 H元.2.9 によると、「相続人の1人が他の相続人に対して上記協議において負担した債務を履行しないときであっても、他の相続人は民法541条によって上記遺産分割協議を解除することができないと解するのが相当である。」とあります。ちなみに負担債務の例としては、高齢の父母の介護などです。判例はあくまで法定解除を否定したのみです。共同相続人全員で合意して解除、再分割することについては、何ら否定していません。

以上より、正解は 5 です。

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