公務員試験 H28年 国家一般職(行政) No.12解説

 問 題     

表現の自由に関する ア〜オ の記述のうち,判例に照らし,妥当なもののみを全て挙げているのはどれか。

ア.筆記行為の自由は,様々な意見,知識,情報に接し,これを摂取することを補助するものとしてなされる限り,憲法第 21 条第1 項により保障されるものであることから,傍聴人が法廷においてメモを取る自由も,その見聞する裁判を認識,記憶するためになされるものである限り,同項により直接保障される。

イ.放送法の定める訂正放送等の規定は,真実でない事項の放送がされた場合において,放送内容の真実性の保障及び他からの干渉を排除することによる表現の自由の確保の観点から,放送事業者に対し,自律的に訂正放送等を行うことを国民全体に対する公法上の義務として定めたものであって,放送事業者がした真実でない事項の放送により権利の侵害を受けた本人等に対して訂正放送等を求める私法上の請求権を付与する趣旨の規定ではない。

ウ.報道関係者の取材源は,一般に,それがみだりに開示されると,報道関係者と取材源となる者との間の信頼関係が損なわれ,報道機関の業務に深刻な影響を与え,以後その遂行が困難になると解されるため,憲法第 21 条は,報道関係者に対し,刑事事件において取材源に関する証言を拒絶し得る権利を保障していると解される。

エ.公共的事項に関する表現の自由は,特に重要な憲法上の権利として尊重されなければならないものであることに鑑み,当該表現行為が公共の利害に関する事実に係り,その目的が専ら公益を図るものである場合には,当該事実が真実であることの証明があれば,当該表現行為による不法行為は成立しない。

オ.雑誌その他の出版物の印刷,販売等の仮処分による事前差止めは,表現物の内容の網羅的一般的な審査に基づく事前規制が行政機関によりそれ自体を目的として行われる場合とは異なり,個別的な私人間の紛争について,司法裁判所により,当事者の申請に基づき差止請求権等の私法上の被保全権利の存否,保全の必要性の有無を審理判断して発せられるものであって,憲法第 21 条第 2 項前段にいう「検閲」には当たらない。

1.イ,ウ
2.イ,オ
3.ア,ウ,エ
4.ア,エ,オ
5.イ,エ,オ

 

 

 

 

 

正解 (5)

 解 説     

記述 ア ですが
レペタ事件の判例によれば、メモを取る自由は、「憲法 21 条1項の精神に照らし尊重に値する」とされています。「直接保障される」わけではありません。記述 ア は誤りです。

記述 イ は妥当です。
判例(最判 H16.11.25) によれば、「放送事業者がした真実でない事項の放送により権利の侵害を受けた本人等は、放送事業者に対し、放送法4条1項の規定に基づく訂正又は取消しの放送を求める私法上の権利を有しない」とされています。

記述 ウ ですが
取材源の秘匿について、憲法 21 条が保障しているという判例は、現時点で知られていません。報道の自由が保障され、取材の自由は憲法 21 条の精神に照らし、十分尊重に値する、とされています。(博多駅事件の判例)。また、NHK 記者証言拒絶事件の判例によれば、「・・・取材源の秘密は、取材の自由を確保するために必要なものとして、重要な社会的価値を有するというべき」というに留まっています。記述 ウ は誤りです。

記述 エ は妥当です。
北方ジャーナル事件の判例によれば、公共性のある表現行為の事前抑制について原則的禁止と、例外要件が明示されています。例外要件は「表現内容が真実でない or 専ら公益目的でないことが明確」 かつ、「重大で著しく回復困難な損害を被るおそれがあるとき」です。事前抑制、すなわち差し止めは名誉権侵害に基づく権利です。つまり、「差し止めが許容=表現行為が不法行為とみなされる」といえます。

これをふまえると、例外要件における太字部分が絶対にみたされず、不法行為は成立しないと考えられます。

記述 オ は妥当です。
北方ジャーナル事件の判例より、仮処分による事前差止めは、検閲にあたりません

以上より、正解は 5 です。

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