公務員試験 H26年 国家一般職(行政) No.2解説

 問 題     

自由と平等に関する次の記述のうち妥当なのはどれか。

1. H.アレントは人間の営みを「労働」「仕事」「活動」の三つに分け、自然的環境への働きかけではなく、人間の間で展開する相互行為である「活動」によってはじめて、人間は「自然」への従属から解放されるという意味で自由になり一人一人が他とは異なる存在になることができるとした。

2. I.バーリンは、自由を、他者からのいかなる干渉も受けずに自分のやりたいことを行うことができるという意味での「消極的自由」と、自分の行為や在り方を自らが主体的に決定できるという意味での「積極的自由」とに分け、民主的市民に不可欠な「自律」の条件として、後者により高い価値を置いた。

3. A.トクヴィルは、アメリカに見られるような物質主義的な平等社会は一方において社会の画一化をもたらす危険性があるが、他方において人々が相互に牽制しあい、そこにバランスが生ずるため、多数の暴政に陥る危険性は低くなるとして、平等社会を積極的に評価した。

4. J.ロールズは、『正義論』において、「平等な自由原理」、「格差原理」、「機会均等原理」といった正義についての諸原理を提示したが、その根底にあるのは、単に人々が正しい関係を築くべきであるという「義務論」的な考え方ではなく、それぞれの人にとってより善い結果がもたらされなければならないという「目的論」的な考え方である。

5. J.ハーバーマスは、自由で理性的なコミュニケーションを可能とする「理想的発話状況」の達成が現実には不可能であることからこうしたコミュニケーションを必要とせずに政治的な正統性の調達を可能とするような、自己完結的な法的システム構築の重要性を訴えた。

 

 

 

 

 

正解 (1)

 解 説     

選択肢 1 は妥当です。
H.アレントは、ドイツ出身哲学者、思想家です。代表的著書は「人間の条件」です。

選択肢 2 ですが
バーリンは「積極的自由」を実現するために、判断力の未熟な個人に代わって国家など、個人の上位に立つ存在が合理的選択肢をあてがうという事態を想定し、きわめて批判的立場をとりました。「後者に」すなわち「積極的自由により高い評価を置いた」という記述は妥当ではありません。選択肢 2 は誤りです。

選択肢 3 ですが
トクヴィルは、物質主義的平等社会→自己中心的個人の増加→多数者の意向に同調傾向→利益誘導による「穏和な専制」の成立を危惧しました。そして、自由との調和的共存のために何が必要かを考えました。「平等社会は・・・多数の暴政に陥る危険性は低くなるとして・・・積極的に評価」してはいません。選択肢 3 は誤りです。

選択肢 4 ですが
ロールズは、正義と善を切り離し、様々な善の構想に対し、中立的に制約する規範を正義としました。このように、正義が善の追求を制約しうる立場(正の善に対する優先権)を義務論的リベラリズムと言います。ロールズの正義論は「義務論的」です。選択肢 4 は誤りです。

選択肢 5 ですが
ハーバーマスは「公共性の構造転換」などの著者です。道具的理性がコミュニケーションの源となっていて、対話的理性を抑制している。公共圏を取り戻そう、といった内容がキーワードです。「公共圏を取り戻し、対話的理性の重要性を訴えた」といった点をふまえると「コミュニケーションを必要とせずに・・・自己完結的な法的システム構築の重要性を訴えた」という記述には違和感を覚えるのではないでしょうか。選択肢 5 は誤りです。

以上より、正解は 1 です。

コメント