公務員試験 H26年 国家一般職(行政) No.1解説

 問 題     

政治過程に関する次の記述のうち妥当なのはどれか。

1. ある政治的な争点が顕在化し社会的な論争を引き起こした場合、しばしば政策決定者は、この問題に関する意思決定をあえて行わず結論を先送りにすることにより、論争の鎮静化を図る。こうした場合に政策決定者が行使する権力を、P.バクラックとM.バラッツは非決定権力と呼んだ。

2. 米国議会においては、政党規律の弱さを背景に、異なる支持者集団を代表する議員どうしが、それぞれの支持者集団の利益になるような政策を相互に邪魔をしあわず多元的に実現することにより、各自の再選確率を高めているという見方があるが、こうした政策実現のプロセスをログ・ローリング(丸太転がし)と呼ぶ。

3. N.ポルスビーは、議会を「変換型」と「アリーナ型」に分類した。前者は内閣が提出した法案を議会が法律へと変換していくタイプであり、英国議会が典型であるとされ、後者は議員たちが次の選挙を意識して相互に政治家としての優劣を競う場としての議会という特徴を持ち、米国議会が典型であるとされる。

4. T.ロウィは、今日のアメリカの民主主義が、法の支配という形式的な正統性だけではなく、様々な利益集団が公式及び非公式の交渉を通じて政策的対立の解決を図るという、多元的民主主義論の視点からの実質的な正統性をも備えているとしてこれを「利益集団民主主義」と呼び肯定的に評価した。

5. T.スコッチポルは、多元主義的政治理論においては国家の存在が等閑視されてきたとしてこれを批判し、利益の表出や集約といった入力過程、討議や意思決定の過程、政策的な出力過程など、政治における中心的な過程がそこで進められる「場」としての国家概念の復権を唱えた。

 

 

 

 

 

正解 (2)

 解 説     

選択肢 1 ですが
バクラックとバラッツの非決定権力とは、争点化されるべき問題を政策決定から排除する権力のことです。例としては、経済成長が至上命題である組織において、公害問題を無視する力があげられます。無視しようとする理由は、公害問題に目を向けることが、経済成長を妨げる可能性があるからです。「意思決定をあえて行わず結論を先送りにする」場合に行使する権力ではありません。選択肢 1 は誤りです。

選択肢 2 は妥当です。
ログ・ローリングについての記述です。

選択肢 3 ですが
内閣が提出した法案を、議会が法律へ変換していくのが「アリーナ型」です。英国議会が典型です。一方、議員が民意を法案に変換していくのが「変換型」です。米国議会が典型とされます。選択肢 3 は誤りです。

選択肢 4 ですが
ロウィ は著書「自由主義の終焉」で、ダールの多元的民主主義論に対する包括的批判を行いました。すなわち、多元主義に基づく政治とは、利益集団間のインフォーマルな交渉が政治的決定を支配する「利益集団民主主義」でしかないと指摘し、民主的になされた意思決定が巧妙にねじ曲げられる点や、フォーマルな法手続きが無視される点などを問題点としてあげました。

選択肢 5 ですが
T.スコッチポルは、編集した「国家を呼び戻せ」において「政府は・・・競技場であると考えられてきた。・・・政府それ自体を独立したアクターとして正面からとらえようとしなかったのである」と主張しました。すなわち、国家自体も自己利益があり、実現する能力を持つ政治アクターであるという主張です。「場としての国家概念の復権」を唱えたわけではありません。選択肢 5 は誤りです。

以上より、正解は 2 です。

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