問 題
世論とマスメディアに関する次の記述のうち,妥当なのはどれか。
1.P.ラザースフェルドらは,1940 年のエリー調査に基づき,選挙キャンペーンの効果について検証した。その結果,選挙までの半年の間に,マスメディアの影響で投票意図(投票を予定している政党)を変えた有権者がごく少数であったこと,すなわちマスメディアによる改変効果は小さいことを主張した。
2.W.リップマンによれば,大衆は複雑な現実世界をありのままに理解する能力を欠いているものの,ステレオタイプ(文化的に規定された固定観念)を用いて極めて正確に周囲の情報を得ている。したがって,彼は,世論の動きには十分に合理性があるとし,大衆民主主義について楽観的な見方を示した。
3.「アナウンスメント効果」とは,マスメディアが選挙前に各政党の公約に関する評価を報じることで,有権者の投票行動に影響が生じる効果をいう。その一種である「判官びいき効果」とは,マスメディアから公約を否定的に評価された政党に有権者から同情が寄せられ,事前予測よりも得票が増える現象をいう。
4.特定の争点に対し,どのような立場の人も意見を表明しなくなる現象を,E.ノエル=ノイマンは「沈黙の螺旋」と呼んだ。彼女によれば,少数派の意見を持つ人は,社会的孤立を恐れて発言を控えてしまう。他方,多数派の意見を持つ人も,他人による意見表明を期待し,積極的な主張をしなくなるとする。
5.特定の争点がマスメディアで強調されると,その争点は有権者が政治指導者を評価する際の基準として比重を増すという効果を「第三者効果」という。一方,同じ争点についても報道の切り口(枠付け)によっては,受け手が情報の信ぴょう性に疑いを持ってしまう。この効果を「フレーミング効果」という。
解 説
選択肢 1 は妥当です。
ラザースフェルドらによるエリー調査についての記述です。(参考 H30no5)
選択肢 2 ですが
リップマンは著書『世論』で、「疑似環境」や「ステレオタイプ」の概念を提唱しました。疑似環境はマスコミによって構築された環境です。ステレオタイプは、頭の中にあらかじめ存在するものの見方、型のことです。ステレオタイプを用いて、自分に都合よく情報を取捨選択、解釈します。「ステレオタイプ(文化的に規定された固定観念)を用いて極めて正確に周囲の情報を得ている」わけではありません。選択肢 2 は誤りです。
選択肢 3 ですが
アナウンスメント効果とは、選挙の前にメディアが行う予測報道が、有権者の投票行動に影響を与える現象のことです。「公約に関する評価を報じることで,有権者の投票行動に影響が生じる効果」ではありません。選択肢 3 は誤りです。
選択肢 4 ですが
ノエル=ノイマンの「沈黙の螺旋」とは、マスメディアがある争点に関する人々の意見分布を報道することにより、自分を少数派だと感じる人々が意見の表明を抑制する傾向が生まれ、その結果ますます多数派の意見のみが強く報道されるようになる現象です。(H26no3)。「どのような立場の人も意見を表明しなくなる現象」ではありません。選択肢 4 は誤りです。
選択肢 5 ですが
「第三者効果」とは、マスメディアがもたらす影響を他人事として考えることを指します。例えば「◯◯が健康にいい」とマスメディアが情報送信した時、「自分はそうは思わないが、周囲は影響を受け、スーパーから◯◯が消えそう」と考える、といったことです。(H28no4)。「フレーミング」とは、争点を描写する際のフレーム(切り口)の違いが,問題の責任をどこに帰属させるかという受け手の解釈に差をもたらすことです。(H28no4)。選択肢 5 は誤りです。
以上より、正解は 1 です。
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