問 題
行政学の学説に関する次の記述のうち,妥当なのはどれか。
1.真渕勝は,国家は官僚が背負うと自負する1960 年代までの国士型官僚,政治家と協力して社会の利益の調整に当たる1970 年代以降の調整型官僚,多様な利益の調整は政治家に任せ,必要最小限の仕事をしようとする1980 年代中頃以降の吏員型官僚という,時代区分に応じた官僚像を示した。
2.人間関係論は,F.テイラーらによるホーソン工場での調査を基に,職場のインフォーマル(非公式)な人間関係以上に,組織の命令系統に基づくフォーマル(公式)な人間関係が,工場での作業能率に大きな影響をもたらしているとした。
3.C.フリードリッヒは,現代における行政の責任とは,議会による行政府に対する統制に適切かつ迅速に応答することであり,コミュニティに対して直接対応する責任や,科学的な知識に基づいて対応する責任は,行政官にとって過大な責任であると考えた。
4.M.リプスキーは,人事,財政担当部局などの職員のように,行政サービスの対象者と直に接し,職務を遂行している行政職員のことを「ストリート・レベルの官僚」と呼び,「エネルギー振り分け」などの裁量が狭いことが職務上の特徴であるとした。
5.R.マートンは,官僚制では,法令,規則に基づいて職務を遂行することは,不確実な社会での柔軟な対応を阻むために重視されず,法令,規則はその時々で柔軟に変更できるものとしつつ,効率的に「目的の転移」を図ることが望ましいとした。
解 説
選択肢 1 は妥当です。
真渕勝は日本の官僚像を類型化し、国士型→調整型→吏員型 という流れを提唱しました。(H28no6)。
選択肢 2 ですが
ホーソン工場での調査で、メイヨーらは、想定していなかった「工場内のインフォーマルな組織」が、「能率に影響を及ぼす」ことに気が付きました。(H29no7)。選択肢 2 は誤りです。
選択肢 3 ですが
フリードリッヒは、行政官の責任として技術的知識と民衆感情への応答性を重視しました。(H27no8)。「コミュニティに対して直接対応する責任や,科学的な知識に基づいて対応する責任は,行政官にとって過大な責任」という考えではありません。選択肢 3 は誤りです。
選択肢 4 ですが
ストリート・レベルの行政職員=対象者との直接的な接触を、日常業務としている行政職員のことです。例)お巡りさん、ケースワーカー。
リプスキーは、この主の行政職員が、多様で複雑な現実問題に対処しており、「法適用の裁量」・・・法令や通達を、現実に柔軟に適用、「エネルギー振り分けの裁量」・・・何に力点をおくか、柔軟に決定(特に、エネルギー振り分けの裁量があるのがストリート・レベルの行政職員の、大きな特徴)という特徴を分析しました。(H28no7)。「エネルギー振り分けなどの裁量が狭いことが職務上の特徴であるとした。」わけではありません。選択肢 4 は誤りです。
選択肢 5 ですが
マートンは、「官僚制の逆機能」を指摘しました。その中で、「規則や続きを遵守しようとする態度」が、「規則や手続きそのものを絶対視するような態度へと転化する」など、本来は「手段」にすぎない規則や手続きが「目的」に転じてしまうことが目的の転移です。「効率的に「目的の転移」を図ることが望ましいとした。」わけではありません。選択肢 5 は誤りです。
以上より、正解は 1 です。
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