問 題
国際関係理論に関する次の記述のうち,妥当なのはどれか。
1.第二次世界大戦後の国際政治学で興隆した政治的リベラリズムの見方によれば,19 世紀に盛んとなった法律主義的なアプローチは理想主義的すぎるものであり,戦争を防ぐためにはむしろ力と国益を重視して勢力均衡を図っていかなければならない。
2.相互依存論によれば,諸国家が文化交流やスポーツを通じて相互依存関係を深化させれば,現状を維持するメリットが拡大し,戦争は割に合わなくなるため,対立が武力紛争化する可能性は著しく減る。このような状況では,経済力の効用は低下し,国力の他の構成要素が重要になる。
3.B.ラセットらは,過去の戦争事例の統計分析に基づき,民主主義国家どうしが戦争をする可能性は低いと論じた。しかし,この民主的平和論は,民主主義国家と非民主主義国家の間の戦争には当てはまらない。
4.1970 年代に R.ギルピンが打ち出した世界システム論によれば,歴史上,世界システムは,単一の政治システムをもつ世界帝国か,中央集権的な政治システムを欠く世界経済の形をとってきた。この分類では,近代世界システムは,16 世紀から長く続く主権国家世界経済とされる。
5.主権とは,絶対王政の時代にアジアで発展した概念であり,諸国家が相互に相手の主権を認める国際社会の基盤になっている。世界人権宣言が加盟国の主権平等の原則を定めたことが契機となって,脱植民地化の時代を経て国家の数も飛躍的に増え,主権の理解も変容した。
解 説
選択肢 1 ですが
「国益を重視して勢力均衡を図っていかなければならない」は、リアリズムの見方です。リベラリズムではありません。(参考 H26no51)。選択肢 1 は誤りです。
選択肢 2 ですが
相互依存論とは、複数の国々の間で経済的な交流が深まり,貿易関係の増大などを通じて相互に依存しあう関係が深まると,戦争の危険は低下するという考えです。(H28no51)。「文化交流やスポーツを通じて」ではありません。選択肢 2 は誤りです。
選択肢 3 は妥当です。
ラセットらの民主的平和論についての記述です。(参考 H26no51)。
選択肢 4 ですが
世界システム論を提唱したのは、ウォーラーステインです。ウォーラーステインは「近代世界システム」において世界システム論を提唱し、世界を「中央、半周辺、周辺」の三層構造と捉えました。(H28no51)。選択肢 4 は誤りです。
選択肢 5 ですが
主権概念を理論化したのは、16 世紀の J.ボダンや 17 世紀の T. ホッブズです。(H27no51)。従って、絶対王政の時代にアジアで発展した概念ではありません。また、加盟国の主権平等の原則を定めているのは国際連合憲章です。世界人権宣言ではありません。選択肢 5 は誤りです。
以上より、正解は 3 です。
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