公務員試験 2019年 国家一般職(行政) No.24解説

 問 題     

抵当権に関する ア~オ の記述のうち,妥当なもののみを全て挙げているのはどれか。ただし,争いのあるものは判例の見解による。

ア.抵当権は,債務者及び抵当権設定者に対しては,その担保する債権と同時でなければ,時効によって消滅しないが,後順位抵当権者及び抵当目的物の第三取得者に対しては,被担保債権と離れて単独に 20 年の消滅時効にかかる。

イ.債権者が抵当権を実行する場合において,物上保証人が,債務者に弁済をする資力があり,かつ,債務者の財産について執行をすることが容易であることを証明したときは,債権者は,まず,債務者の財産について執行をしなければならない。

ウ.抵当権は,その目的物の賃貸によって債務者が受けるべき賃料についても行使することができるところ,この「債務者」には抵当権設定・登記後に抵当不動産を賃借した者も含まれると解すべきであるから,抵当権設定・登記後に抵当不動産を賃借した者が賃貸人の同意を得て転貸借を行っていた場合,抵当権者は,抵当不動産を賃借した者が取得すべき転貸賃料債権についても,原則として物上代位権を行使することができる。

エ.抵当権設定・登記後に抵当不動産の所有者から賃借権の設定を受けてこれを占有する者について,その賃借権の設定に抵当権の実行としての競売手続を妨害する目的が認められ,その占有により抵当不動産の交換価値の実現が妨げられて抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは,抵当権者は,当該賃貸借契約の賃料相当額の損害が生じたとして,抵当権侵害による不法行為に基づく損害賠償請求をすることができる。

オ.不動産の取得時効完成後,所有権移転登記がされることのないまま,第三者が原所有者から抵当権の設定を受けて抵当権設定登記を完了した場合は,所有権移転登記よりも抵当権設定登記が先になされている以上,当該不動産の時効取得者である占有者が,その後引き続き時効取得に必要な期間占有を継続したとしても,特段の事情がない限り,当該抵当権は消滅しない。

1.ア
2.ウ
3.ア,イ
4.イ,ウ
5.エ,オ

 

 

 

 

 

正解 (1)

 解 説     

記述 ア は妥当です。
民法 396 条より、債務者と抵当権設定者に対しては、抵当権は被担保債権と同時でなければ、時効で消滅しません。そして、第三取得者及び後順位抵当権者との関係では、被担保債権と離れて、民法 167 条 2 項より、20 年の消滅時効にかかるとされています。(大判 S15.11.26)。

記述 イ ですが
物上保証人とは、自己所有の財産を他人の債務の担保にした人です。保証人とは異なり、債務を追うわけではありません。検索の抗弁権は有しません。すなわち、債務者の弁済資力や、執行の容易さを証明しても、別に債権者がまず債務者の財産について執行しなければならない、というわけではありません。ちなみに、担保権が実行されて、物上保証人が弁済した時には、保証人同様に物上保証人は、債務者への求償権を取得します。記述 イ は誤りです。

記述 ウ ですが
賃借人の転貸賃料債権と抵当権者の物上代位権に関する 最判 H12.4.14 によれば、抵当権者は、抵当権のついた不動産の賃借人を、所有者と同視することを相当とする場合を除いて、賃借人が取得する転貸賃料債権に、物上代位権を行使することはできません。「原則として、物上代位権を行使できる」わけではありません。記述 ウ は誤りです。

記述 エ ですが
抵当権者は、占有者に対して、直接自分に抵当不動産の明渡しを請求できます。一方で、抵当権者は、抵当不動産に対する第三者の占有により賃料額相当の損害を被るものではないと判示されています。(最判 H17.3.10)。記述 エ は誤りです。

記述 オ ですが
再度の取得時効の完成と抵当権の消長 に関する 最判 H24.3.16 によれば、再度取得時効完成すれば、抵当権の消滅を妨げる特段の事情がない限り、抵当権は消滅します。記述 オ は誤りです。

以上より、正解は 1 です。

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