公務員試験 2019年 国家一般職(行政) No.23解説

 問 題     

占有権に関するア~オの記述のうち,妥当なもののみを全て挙げているのはどれか。ただし,争いのあるものは判例の見解による。

ア.賃貸借契約に基づき,Aが自己の所有物をBに賃貸した場合,BがAの代理人として占有することにより,Aは本人として占有権を取得するが,当該賃貸借契約が無効となったときには,Bの代理権の消滅により,Aの占有権は消滅する。

イ.善意の占有者は,占有物から生ずる果実を取得することができるが,本権の訴えにおいて敗訴した場合は占有開始時から悪意の占有者とみなされるため,占有開始時から収取した果実を返還しなければならない。

ウ.相続人が,被相続人の死亡により相続財産の占有を承継したばかりでなく,新たに相続財産を事実上支配することによって占有を開始し,その占有に所有の意思があるとみられる場合においては,被相続人の占有が所有の意思のないものであったときでも,相続人は,民法第 185 条にいう新たな権原により当該相続財産の自主占有をするに至ったものと解される。

エ.占有権に基づく訴えに対し,所有権者が防御方法として自己の所有権の主張をすることは認められないが,所有権者が所有権に基づく返還請求の反訴を提起することは認められる。

オ.占有権は占有者が占有物の所持を失うことにより消滅するが,占有者は,占有回収の訴えを提起して勝訴すれば,現実にその物の占有を回復しなくても,現実に占有していなかった間も占有を失わず占有が継続していたものと擬制される。

1.ア,イ
2.ア,ウ
3.ウ,エ
4.ウ,オ
5.エ,オ

(参考) 民法
(占有の性質の変更)
第185 条 権原の性質上占有者に所有の意思がないものとされる場合には,その占有者が,自己に占有をさせた者に対して所有の意思があることを表示し,又は新たな権原により更に所有の意思をもって占有を始めるのでなければ,占有の性質は,変わらない。

 

 

 

 

 

正解 (3)

 解 説     

記述 ア ですが
民法 204 条 2 項により、占有権は、代理権の消滅のみによっては、消滅しません。従って、記述 ア は誤りです。

記述 イ ですが
民法 189 条 2 項により、善意の占有者が本権の訴えにおいて敗訴したときは、訴えの提起の時から悪意の占有者とみなされます。占有開始時からではありません。記述 イ は誤りです。

記述 ウ は妥当です。
最判 S46.11.30 の内容です。(H28no23 イ)。

記述 エ は妥当です。
民法 202 条 2 項より、占有の訴えについては、本権に関する理由に基づいて裁判をすることができません。また、民法第 202 条 1 項より、占有の訴えは本権の訴えを妨げません。そのため、所有権者が所有権に基づく返還請求を、反訴の形で提起できます。

記述 オ ですが
最判 S44.12.2 によれば、占有回収の訴えを提起後,勝訴し現実に占有を回復したとき,占有が継続していたものと擬制されます。「現実にその物の占有を回復しなくても」占有継続が擬制されるわけではありません。記述 オ は誤りです。

以上より、正解は 3 です。

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