公務員試験 2019年 国家一般職(行政) No.20解説

 問 題     

国家賠償に関する ア~オ の記述のうち,判例に照らし,妥当なもののみを全て挙げているのはどれか。

ア.公務員が,客観的に職務執行の外形を備える行為によって他人に被害を生ぜしめた場合において,当該公務員が自己の職務権限を行使する意思を有していたときは,国又は公共団体は損害賠償責任を負うが,当該公務員が自己の利を図る意図を有していたにすぎないときは,国又は公共団体は損害賠償責任を負わない。

イ.国又は公共団体の公務員による一連の職務上の行為の過程において他人に被害を生ぜしめた場合において,それが具体的にどの公務員のどのような違法行為によるものであるかを特定することができなくても,一連の行為のうちのいずれかに行為者の故意又は過失による違法行為があったのでなければ被害が生ずることはなかったであろうと認められ,かつ,それがどの行為であるにせよこれによる被害につき行為者の属する国又は公共団体が法律上賠償の責任を負うべき関係が存在するときは,国又は公共団体は,国家賠償法又は民法上の損害賠償責任を免れることができない。

ウ.逮捕状は発付されたが,被疑者が逃亡中のため,逮捕状の執行ができず,逮捕状の更新が繰り返されている時点であっても,被疑者の近親者は,被疑者のアリバイの存在を理由に,逮捕状の請求,発付における捜査機関又は令状発付裁判官の被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があったとする判断の違法性を主張して,国家賠償を請求することができる。

エ.国会議員が国会で行った質疑等において,個別の国民の名誉や信用を低下させる発言があったとしても,これによって当然に国家賠償法第1 条第1 項の規定にいう違法な行為があったものとして国の損害賠償責任が生ずるものではなく,当該責任が肯定されるためには,当該国会議員が,その職務とは関わりなく違法又は不当な目的をもって事実を摘示し,あるいは,虚
偽であることを知りながらあえてその事実を摘示するなど,国会議員がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認め得るような特別の事情があることが必要である。

オ.都道府県が行った児童福祉法に基づく入所措置によって社会福祉法人の設置運営する児童養護施設に入所した児童に対する当該施設の職員による養育監護行為については,当該施設の職員が都道府県の職員ではない以上,都道府県の公権力の行使に当たる公務員の職務行為と解することはできない。

1.ア,ウ
2.ア,オ
3.イ,ウ
4.イ,エ
5.エ,オ

 

 

 

 

 

正解 (4)

 解 説     

記述 ア ですが
通説・判例によれば、外形標準説です。(H28no20 ウ)。職務行為を、「客観的にみて外形が職務執行と認められる場合」と解釈します。「自己の利を図る意図をもって行った行為」も、客観的に外形を備えれば職務行為として認められます。従って、国又は公共団体は損害賠償の責任を負うことがあります。記述 ア は誤りです。

記述 イ は妥当です。
加害行為者・加害行為の特定に関する 最判 S57.4.1 の内容です。

記述 ウ ですが
最判 H 5.1.25 によれば、逮捕状の更新が繰り返されている時点において、違法性の有無の審理を裁判所に求めることができるとすれば、密行性が要求される捜査遂行に重大な支障を来たします。そのため、国家賠償請求は認められません。記述 ウ は誤りです。

記述 エ は妥当です。
国会議員の発言と国家賠償責任 に関する 最判 H9.9.9 の内容です。

記述 オ ですが
最判 H19.1.25 によれば、入所後の施設における養育監護は本来都道府県が行うべき事務であり、児童養護施設の長は、本来都道府県が有する公的な権限を委譲されてこれを都道府県のために行使するものと解されます。そのため、当該法人職員等による養育監護行為は、公権力の行使に当たる公務員の職務行為にあたると解されます。記述 オ は誤りです。

以上より、正解は 4 です。

コメント