公務員試験 2019年 国家一般職(行政) No.4解説

 問 題     

議会と立法過程に関する次の記述のうち,妥当なのはどれか。

1.N.ポルスビーは各国の議会を類型化した。米国連邦議会を典型とする「変換型議会」は,社会の様々な要求を実質的に法律に変換する機能を果たす。これに対して,英国議会を典型とする「アリーナ型議会」は,与野党が次回の選挙を意識しながら,争点や各政党の政策の優劣を争う場として機能する。

2.J.ブロンデルは議会の「粘着性(ヴィスコシティ)」という概念を提唱した。これは,野党が様々な手段を用いて,議員提出法案の成立を促すという議会の能力を指す。M.モチヅキによると,我が国の国会は,二院制,委員会制,会期制を採っているなどの理由で審議時間が十分に確保されており,粘着性が高い。

3.英国議会では,三回の読会を通して法案審議が行われる。最も実質的な審議が行われる第二読会では,バックベンチャーと呼ばれる政府と野党の有力議員が議場で向かい合い,法案の原則等について討論する。この審議は全て委員会の場で行われるため,英国議会の在り方は委員会中心主義と呼ばれる。

4.J.アバーバックらは,欧米各国の政治家と官僚に質問調査を行い,立法過程の解明を試みた。その結果,多くの国で,政治家と官僚の役割は明確に区別されていることが明らかとなった。官僚の業務は政策の実施に限定されており,政策の立法化や利害の調整を行うのは専ら政治家の役割であることが示された。

5.戦後日本における法案の作成過程では,与野党による事前審査が大きな役割を果たしてきた。この仕組みの下では,内閣提出法案は全て,与野党の国会対策委員会の間の折衝によって内容が決められたのち,国会に提出されていた。しかしこの仕組みは,2000 年代の小泉純一郎内閣の時期に全廃された。

 

 

 

 

 

正解 (1)

 解 説     

選択肢 1 は妥当です。
N.ポルスビーは、議会を「変換型」と「アリーナ型」に分類しました。(H26no1)。

選択肢 2 ですが
粘着性とは、提出法案の成立を妨害する性質です。「議員提出法案の成立を促す」という議会の能力を指すわけではありません。後半部分の記述は妥当です。粘着性(ヴィスコシティ)という概念を引用して分析した M.モチヅキによれば、日本の国会は粘着性が高いとされています。

選択肢 3 ですが
バックベンチャーとは、役職のない一般議員のことです。また、委員会中心主義の典型はアメリカ合衆国です。英国議会は、委員会中心主義と対比される本会議中心主義の例としてあげられてきました。ただし、本試験時点において、しだいに委員会が重視されていると考えられています。選択肢 3 は誤りです。

選択肢 4 ですが
J.D.アバーバックらは,政策形成過程における政治家と官僚の関係を4 類型に分類しました。彼らは,政治家が政策の立案,官僚が政策の実施という別の役割を担う状態(イメージⅠ)から,次第に両者の区別がつかなくなる状態(イメージⅣ)に至る道筋を示し,多くの国では,官僚が利益の調整まで担う状態(イメージⅢ)が実際には現実を描いているとしました。H30no10)。「多くの国で、政治家と官僚の役割は明確に区別されている」ことが明らかとなったわけではありません。選択肢 4 は誤りです。

選択肢 5 ですが
法案は「与党事前審査」を経て国会提出されていました。「与野党の・・・折衝によって内容が決められたのち」ではありません。また、小泉純一郎内閣の時期に全廃されてはいません。選択肢 5 は誤りです。

以上より、正解は 1 です。

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