薬物分布の変動要因

薬物を投与した時に、人体にどう分布するかを表すパラメータが分布容積です。

薬物を投与すれば、投与経路が経口、静注、、、何であれ、吸収されれば、血液の流れに乗ります。血液の流れに、ずっと薬物が存在すれば、血液の体積(約3.5L)に分布で、おしまいです。ですが、人体には血液以外にも「薬物が分布できる水分」があります。以下、少し詳しく、人体の水分構成について説明します。

人間の体(70kgと仮定)は、60%が水分なので、体内には、約 42kg (= 42 L) の液体が存在します。この液体は、大きく細胞外(組織外)と細胞内(組織内)に2分できます。細胞外の水分は更に血液(約3.5L) と、それ以外(組織間液(約10.5L))に分類されます。※組織間液とは、血管内に存在しないが細胞内にも入り込めずあふれている液体 と考えるとよいです。細胞内まで、薬物が均等に分布すれば、人体全体つまり 42L に薬物は分布します。

次に、代表的な4種類の薬物の分布容積について説明します。

1「色素系薬物 の 分布容積」

エバンスブルーやインドシアニングリーンといった色素系薬物の特徴は、アルブミン等の血漿タンパク質と結合率が高く、かつ極めて強く結合する という点です。すると、薬物が血液に入ると、アルブミン等と極めて強く結合しその結果、血中をぐるぐる周ります。従って分布容積は、血液の体積 3.5L とほぼ一致します。

2「イヌリン などの 分布容積」

イヌリンなどの薬物は、アルブミンとの結合はそれほど強くありません。そのため、血管からもれでて組織付近まで分布します。しかし、組織透過性が低いです。そのため、分布容積は、血液の体積+細胞外 の体積である 14L とほぼ一致します。

3「エタノール などの 分布容積」

エタノールなどの薬物は、アルブミンとの結合はそれほど強くありません。さらに、細胞膜も容易に透過し
組織内へと入り込みます。(脳にも速やかに移行し、酔う わけです。)分布容積は、体全体 の体積である 42 L とほぼ一致します。

4「チオペンタール や 三環系抗うつ剤 などの分布容積」

これらの薬物の特徴は、比較的組織移行性 及び 「組織への蓄積性」が高いという点です。分布容積は 42L を超えた値になります。※分布容積の定義は、Vd = X/C です。X:投与した薬物の量、C:血中濃度。あっという間に組織へとほとんどの血液から薬物が移行することから、C がとても小さな値になって42 を超えることもあるのです。

代表的な4パターンの薬物の分布容積に見られるように、薬物分布は「アルブミンとの結合性が強いかどうか」、「細胞膜の透過性が高いかどうか(脂溶性と高い相関。分子量の大小も重要。)」によって、変動します。さらに「組織への蓄積性が高いかどうか」によっても変動する といえます。

もう少し大きなスケールで人体を捉えて、器官への薬物分布に注目します。すると、「血流量」も重要な要素です。血液の循環量が多く、循環が速い臓器 (脳、肝臓、腎臓、心臓など)にはそれだけ多く、速く、薬物が分布します。一方、脂肪組織や骨組織 といった血流量が比較的少ない臓器への薬物の分布は、ゆっくりになります。疾病などで、これらの臓器への血流量が変化すれば、薬物分布も変動するということです。

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