薬物の体内動態と薬効発現の関わり

薬物は、吸収(absorption)→ 分布(distribution)→ 代謝(metabolism)→ 排泄(Excretion)という過程を体内で経ます。それぞれの頭文字をとって、ADME と呼ばれます。薬物の薬効発現にADMEは深く関与しています。それぞれについて詳しく説明します。

吸収(A)とは、投与部位から血液に薬物がとりこまれる事です。口から飲めば、消化管から吸収されます。皮膚や感覚器(目、耳、鼻)、直腸(おしり)から吸収される薬もあります。

分布(D)とは、薬物が血液循環にのり、組織、器官に移行する事です。血中において薬物は、タンパク質(主にアルブミン)と結合しています。組織へ移行するとは、細胞膜を通過すると言いかえる事ができますが、タンパク質と結合している状態では薬物は組織へ移行できません。

つまり、タンパク質「非」結合型の薬物のみが、組織へと移行します。このため、薬物と血中のタンパク質が結合しやすいかどうか、又、血中アルブミンの量などが、薬効の分布に影響を及ぼします。

代謝(M)とは、薬物が酵素により酸化・還元・加水分解といった反応をうける事です。代謝酵素は主に肝臓に存在します。消化管粘膜や皮膚にも存在します。薬物は代謝をうけて、原則的に不活性化し、排泄されやすいように水溶性が増加します。

(少し脇道です。肝臓が「体内の解毒装置」と例えられるのは、薬物を含めた体内にとっての異物を、代謝酵素により不活性化、排泄されやすくするといった機能に着目してのことです。又、肝臓は「体内最大の化学工場」と例えられることもありますが、肝臓における消化酵素により行われる、酸化・還元・加水分解のみならず胆汁やホルモンの生合成、鉄分やビタミンの貯蔵や活性化といった本当に様々な働きを行なっています。これらの多くの役割は、どれも生命の維持に直結しており、肝臓の機能停止は、そのまま生命の危機です。そのため、肝臓には多くの予備細胞が用意されており、再生能力も非常に高い臓器として知られています。)

排泄(E)とは、薬物を体外へ排出する事です。主に尿による腎排泄です。胆汁、唾液、呼気、汗、母乳などにも排泄されます。

薬物の投与方法により、ADME のどの過程を、どの順番で経るかが変化します。そのため、病態や薬の物性に応じた適切な投与経路の設計が、最適な薬効の発現には必要です。

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