糖尿病治療薬

糖尿病とは、血糖値やHb(ヘモグロビン)A1c 値が、一定の基準を超えた状態のことです。糖尿病の状態が継続することで、様々な合併症が進行します。腎症、網膜症、神経障害が三大合併症として知られています。

糖尿病は、原因により1型と2型に分類されます。インスリンの絶対的量不足による糖尿病が1型糖尿病です。何らかの要因による、インスリンの量及び作用の相対的な不足による糖尿病が 2 型糖尿病です。

1型糖尿病の治療には、インスリンが用いられます。2型糖尿病の治療には、食事療法・運動療法 → 経口糖尿病治療薬 → インスリンが、段階的に用いられます。

糖尿病治療薬は、大きく 10 種に分類されます。

   ⅰ.全ての型に使用する糖尿病治療薬
   ⅱ.SU(sulfonylurea) 薬
   ⅲ.ビグアニド系薬
   ⅳ.インスリン抵抗性改善薬
   ⅴ.α-GI (α-glucosidase inhibitor)
   ⅵ.DPP-4選択的阻害薬
   ⅶ.ヒト GLP-1 受容体作動薬
   ⅷ.糖尿病性抹消神経症治療薬
   ⅸ.糖尿病性腎症治療薬
    x.SGLT 2 選択的阻害薬

ⅰ.全ての型に使用する糖尿病治療薬

このタイプの代表的な薬は
   ・インスリン(イスジリン)
などが挙げられます。

インスリンは、全ての型に用いられる糖尿病治療薬です。内服無効で、注射でしか用いられないという特徴があります。

ⅱ.SU(sulfonylurea) 薬

このタイプの代表的な薬は
   ・トルブタミド(ジアベン)
   ・アセトヘキサミド(ジメリン)
   ・クロルプロパミド(アベマイド)
   ・グリクラジド(グリミクロン)
   ・グリベンクラミド(オイグルコン)
   ・グリメピリド(アマリール)
などが挙げられます。

トルブタミド、アセトヘキサミド、クロルプロパミド、グリクラジド、グリベンクラミド、グリメピリドは、スルホニル尿素薬(SU:sulfonylurea)です。

SU 薬は、膵臓の β 細胞膜の SU 受容体に結合します。すると ATP 依存性 K+ チャネルが close し、膜の脱分極が引き起こされます。これをきっかけとして、膜電位依存性 Ca2+ チャネルが open し、細胞内 Ca2+ 濃度が上昇します。これによりインスリン分泌が促進されます。

ナテグリニド、ミチグリニドは、速効性インスリン分泌促進薬です。これらの薬は SU 構造は持たないのですが、SU 受容体に結合して、SU 薬と同様のメカニズムで作用します。さらに、SU 薬に比べ吸収が早く、服用後すぐに血糖値降下が見られるという特徴があります。すぐに効くため、食直前に服用するよう注意が必要です。

ⅲ.ビグアニド系薬

このタイプの代表的な薬は
   ・メトホルミン(メトグルコ)
   ・ブホルミン(ジベトス)
などが挙げられます。

メトホルミン、ブホルミンは、ビグアニド系薬です。インスリン分泌作用がないことが特徴です。又、安いです。世界中で一番使われている糖尿病治療薬です。(2012年時点)。

肝臓での糖新生の抑制や、糖利用促進及び、AMPキナーゼ(AMPK)の活性亢進などを介して血糖を低下させます。特徴的な副作用として、乳酸アシドーシスがあり、初期症状である吐き気、腹痛など注意が必要です。

ⅳ.インスリン抵抗性改善薬

このタイプの代表的な薬は
   ・ピオグリタゾン(アクトス)
などが挙げられます。

ピオグリタゾンは、インスリン抵抗性改善薬です。PPARγ(Peroxisome Proliferator-Activated Receptor γ)という核内受容体に作用することで、TNF-α(Tumor Necrosis Factor-α)産生抑制 及び アディポネクチン(超善玉ホルモンと呼ばれる、ホルモンの一種です。血中濃度が一般的なホルモンに比べ桁違いに多いという特徴があります。)産生促進をひきおこします。その結果として、インスリン抵抗性の改善が行われます。特に女性に現れやすい副作用として浮腫があります。

ⅴ.α-GI (α-glucosidase inhibitor)

このタイプの代表的な薬は
   ・アカルボース(グルコバイ)
   ・ボグリボース(ベイスン)
などが挙げられます。

アカルボース、ボグリボース、ミグリトールは、α-グルコシダーゼ阻害薬です。α-GI(α-glucosidase inhibitor)と略されます。

これらの薬は、小腸においてα-グルコシダーゼなどの二糖類分解酵素を阻害します。これにより、単糖類の生成を抑制し、腸管からの糖の吸収を低下させることで食後過血糖を改善します。このメカニズムをいかすために、用法は食直前となります。

又、低血糖症状がもしこの薬を服用中に現れた時は、速やかにショ糖(多糖)ではなくブドウ糖(単糖)を摂取しなければならないことに注意が必要です。

ⅵ.DPP-4 選択的阻害薬

このタイプの代表的な薬は
   ・シタグリプチン(ジャヌビア)
   ・ビルダグリプチン(エクア)
などが挙げられます。

シタグリプチンやエクアは、DPP-4 (Dipeptidyl Peptidase-4)選択的阻害薬です。

DPP-4 は、腸管ホルモンであるインクレチンというホルモンを不活化するような酵素(セリンプロテアーゼ)です。この DPP-4 を阻害することにより、インクレチンの働きを間接的に助けることでインスリン分泌が促進されます。

この薬の特徴として、インスリン分泌の調節が、グルコース濃度依存的に行われるという点が上げられます。すなわち高血糖の時のみ、この薬は作用するのです。糖尿病治療薬につきものであった副作用である低血糖が起こりにくい薬として、DPP-4 阻害薬は知られています。

ⅶ.ヒトGLP-1受容体作動薬

このタイプの代表的な薬は
   ・リラグルチド(ビクトーザ)
などが挙げられます。

リラグルチドは、ヒト GLP-1 (glucagon like peptide-1) 受容体作動薬です。GLP-1とは
インクレチンの一種です。

DPP-4 により分解されにくいように設計された、GLP-1 と似ているけど形の異なる誘導体です。GLP-1 アナログとも呼ばれます。膵臓β細胞の GLP-1 受容体を介して作用することで
、シタグリプチンと同様にグルコース濃度依存的にインスリン分泌促進作用を示します。

ⅷ.糖尿病性抹消神経症治療薬

このタイプの代表的な薬は
   ・エパルレスタット(キネダック)
   ・メキシレチン(メキシチール)
などが挙げられます。

エパルレスタット、メキシレチンは、糖尿病性末梢神経治療薬です。

エパルレスタットはアルドース還元酵素阻害薬です。糖尿病になり、高血糖状態が続くと
ブドウ糖が血中に多く存在する状態が持続します。すると、過剰のブドウ糖を材料として
アルドース還元酵素によりソルビトールが大量に作られます。この大量のソルビトールが
糖尿病性神経障害の原因の1つであると考えられています。

エパルレスタットは、神経細胞内のソルビトールの蓄積を防止することにより、糖尿病性末梢神経障害に伴うしびれや痛みを改善します。

メキシレチンは、Na+ チャネルを遮断することにより、糖尿病性末梢神経障害に伴うしびれや痛みを改善します。

ⅸ.糖尿病性腎症治療薬

このタイプの代表的な薬は
   ・イミダプリル(タナトリル)
   ・ロサルタンカリウム(ニューロタン)
などが挙げられます。

イミダプリル、ロサルタンカリウムは、糖尿病性腎症治療薬です。

イミダプリルはACE阻害剤です。アンギオテンシン II 産生抑制による腎保護作用により、糖尿病性腎症の悪化を抑制します。1型糖尿病に伴う糖尿病性腎症に用いられます。(ACE阻害薬の中で唯一の適応)

ロサルタンカリウムは、AT1 受容体遮断薬です。やはり腎保護作用があり、高血圧及びタンパク尿を伴う2型糖尿病における糖尿病性腎症に用いられます。

x. SGLT2 選択的阻害薬
このタイプの代表的な薬は
   ・イプラグリフロジン(スーグラ)
などが挙げられます。

SGLT2 とは、腎臓の近位尿細管に発現するグルコーストランスポーターの一種です。腎臓におけるグルコースの再吸収を担うトランスポーターです。血中に糖がいっぱいあるので、どんどん尿に糖を出してしまえばいい。そのために、尿から血中に糖を再吸収するトランスポーターを阻害するという薬です。

代表的な糖尿病治療薬をまとめると、以下の表になります。

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