虚血性心疾患とは、心筋に血液を供給する冠動脈(心臓の周りの血管)に狭窄または閉塞が生じることにより、心筋への酸素供給が低下して胸痛などの発作をきたす疾患です。
代表的なものに、狭心症と、心筋梗塞があります。これらの違いは、心筋が壊死するかどうかです。狭心症は、心筋が壊死しません。心筋梗塞は、心筋が壊死します。
狭心症は、大きく2つに分類されます。
1つめは労作性狭心症です。これは、通常の生活では発作をおこさず、運動などにより心筋の酸素消費量が増加した時に発作をおこすような狭心症のことです。2つめは安静時狭心症です。冠動脈が痙攣することにより、心臓への血流が不足することによりおきる狭心症のことです。
狭心症の治療薬は、大きく2つに分類されます。
1つは、冠動脈を拡張して、心筋への酸素供給を増加させる薬物です。2つめは、心筋の仕事量を減らし、心筋への酸素消費を減少させる薬物です。
虚血性心疾患治療薬は、大きく 5 つに分類されます。
ⅰ.硝酸薬
ⅱ.β 遮断薬
ⅲ.Ca拮抗薬
ⅳ.アデノシン増強薬
ⅴ.心筋梗塞治療薬
ⅰ.硝酸薬
このタイプの代表的な薬は
・ニトログリセリン(ミリスロール)
・硝酸イソソルビド(ニトロール)
・ニコランジル(シグマート)
などが挙げられます。
ニトログリセリン、硝酸イソソルビド、ニコランジルは、硝酸薬です。硝酸薬を服用すると、体内でNO(一酸化窒素)が遊離されます。
NO は、血管平滑筋のグアニル酸シクラーゼを活性化します。その結果 GTP からの cGMP 生成が促進されます。この結果、冠動脈の血管拡張が引き起こされます。さらに、末梢静脈が拡張することにより、前負荷が減少することにより、心筋の酸素消費が減少します。これらの複合的な効果により、狭心症に対して作用します。
実際の臨床では、舌下錠として用いられ、速やかに吸収されることにより発作の治療薬として用いられています。
ⅱ.β 遮断薬
このタイプの代表的な薬は
・プロプラノロール(インデラル)
・ピンドロール(カルビスケン)
・カルテオロール(ミケラン)
・アテノロール(テノーミン)
・アセブトロール(アセタノール)
・メトプロロール(セロケン)
・ビソプロロール(メインテート)
などが挙げられます。
プロプラノロール、ピンドロール、カルテオロール、アテノロール、アセブトロール、メトプロロール、ビソプロロールは、β遮断薬です。β遮断薬は、心臓に働くことで、心筋収縮力と心拍数を低下させることにより心筋の酸素消費を減少させます。
ⅲ.Ca 拮抗薬
このタイプの代表的な薬は
・ニフェジピン(アダラート)
・ニトレンジピン(バイロテンシン)
・アムロジピン(ノルバスク)
・ジルチアゼム(ヘルベッサー)
・ベラパミル(ワソラン)
などが挙げられます。
ニフェジピン、ニトレンジピン、アムロジピン、ジルチアゼム、ベラパミルは、Ca チャネル遮断薬です。冠動脈拡張作用により、心筋への酸素供給を増加させることにより抗狭心症薬として働きます。副作用として、反射性頻脈、頭痛、顔面紅潮などがあることが特徴です。
ⅳ.アデノシン増強薬
このタイプの代表的な薬は
・ジピリダモール(ペルサルチン)
・ジラゼブ(コメリアン)
などが挙げられます。
ジピリダモール、ジラゼブは、アデノシン増強薬です。これらの薬は、アデノシンの分解を抑制するなどにより、冠動脈に存在する A2 受容体へのアデノシン結合量を増加させ、冠血管拡張を引き起こし、それにより心筋への酸素供給量を増加させます。
ⅴ.心筋梗塞治療薬
このタイプの代表的な薬は
・モルヒネ(アンペック)
・リドカイン(キシロカイン)
・ワルファリン(ワーファリン)
・ヘパリン
・ウロキナーゼ(ウロナーゼ)
・アルテプラーゼ(アクチバシン)
・モンテプラーゼ(クリアクター)
・アスピリン(バイアスピリン)
などが挙げられます。
モルヒネ、リドカイン、ワルファリン、ヘパリン、ウロキナーゼ、◯◯プラーぜ、アスピリンは、心筋梗塞治療薬です。
モルヒネは、主に痛み止めとして用いられます。
リドカインは、急性心筋梗塞に伴う心室性不整脈の予防目的で投与されます。
ワルファリン、ヘパリンは、血栓形成の予防薬です。
ウロキナーゼ、◯◯プラーゼは、血栓溶解薬です。これは、発症後6時間以内に投与することにより急性心筋梗塞の予後をよくする薬です。
アスピリンは、低用量で用いることにより、血栓形成が予防できることが知られています。
代表的な虚血性心疾患薬をまとめると、以下の表になります。
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