代表的な心不全治療薬

心不全とは、心臓のポンプとしての機能が低下し、全身に十分な量の血液を送ることができなくなった状態のことです。

心不全時、代償的な血流量の維持が体の中では行われます。イメージとしては、血を送り出すポンプがあまり血を送り出さないからポンプに血をたくさん入れようとしたり(前負荷の増大、浮腫として現れます)、ポンプを外から手でぎゅっと押してみるといったことが行われます。(神経系の興奮を通じた末梢血管の収縮増強という形で現れます。これは後負荷の増大として現れます。)

その結果、ポンプがパンパンになったり、強く押されることで形が変形したりします。これは心筋のリモデリングと呼ばれます。心肥大として現れます。このようなポンプの変形が長期的にはさらなる心不全へとつながります。

心不全治療薬は大きく2つに分類されます。

   ・ 強心薬
   ・ 心臓への負担を軽減させる薬

以下、それぞれについて解説します。

◇強心薬◇

強心薬とは、心臓の収縮力を上げる薬です。強心薬は作用機序に基づき、大きく7つに分類されます。

   ⅰ.ジギタリス製剤
   ⅱ.β1 刺激薬
   ⅲ.アデニル酸シクラーゼ(AC)活性化薬
   ⅳ.非選択的ホスホジエステラーゼ阻害薬
   ⅴ.ホスホジエステラーゼIII阻害薬
   ⅵ.トロポニンC感受性増強薬
   ⅶ.cAMPを直接増加

ⅰ.ジギタリス製剤

このタイプの代表的な強心薬は
   ・ジギトキシン
   ・ジゴキシン
などが挙げられます。

ジギトキシン、ジゴキシンは、ジギタリス製剤と呼ばれます。Na+ , K+ - ATPase を阻害することにより、心筋収縮力増強作用をもつ心不全薬です。利尿薬との併用で相互作用(低カリウム血症がおきやすい)があり使用時に注意が必要です。

ⅱ.β1 刺激薬

このタイプの代表的な強心薬は
   ・ドブタミン(ドブトレックス)
   ・デノパミン(カルグート)
   ・ドパミン(イノバン)
   ・ドカルパミン(タナドーパ)
などが挙げられます。(  )の中が商品名の一例になります。

ドブタミン、デノパミン、ドパミン、ドカルパミンは、β1 刺激薬です。心筋のβ1 受容体を刺激することにより、Gsタンパク質を介してアデニル酸シクラーゼ(AC:adenylate cyclase)が刺激(活性化)されます。アデニル酸シクラーゼが活性化されると、細胞内サイクリックAMP(cAMP:cyclic AMP)が増加します。細胞内 cAMP が増加することで、心筋収縮力が増強されます。

ⅲ.アデニル酸シクラーゼ(AC)活性化薬

このタイプの代表的な強心薬は
   ・コルホルシンダロパート(アデール)
などが挙げられます。

コルホルシンダロパートは、アデニル酸シクラーゼ(AC)活性化薬です。ACとは、cAMP を合成する酵素です。AC を活性化することにより、細胞内 cAMP を増加させることで心筋収縮力を増加させるとともに、血管拡張を行い後負荷を軽減させます。

ⅳ.非選択的ホスホジエステラーゼ阻害薬

このタイプの代表的な強心薬は
   ・アミノフィリン(ネオフィリン)
などが挙げられます。

アミノフィリンは、非選択的ホスホジエステラーゼ阻害薬です。ホスホジエステラーゼは、cAMP を分解する酵素です。分解酵素を阻害することにより、細胞内 cAMP を増加させることで AC 活性化薬と同様に働きます。

ⅴ.ホスホジエステラーゼ III 阻害薬

このタイプの代表的な強心薬は
   ・ミルリノン(ミルリーラ)
   ・オルプリノン(コアテック)
などが挙げられます。

ミルリノン、オルプリノンは、ホスホジエステラーゼ III 阻害薬です。心筋と血管平滑筋のホスホジエステラーゼ III を選択的に阻害し細胞内 cAMP を増加させることで AC 活性化薬と同様に働きます。

ⅵ.トロポニン C 感受性増強薬

このタイプの代表的な強心薬は
   ・ピモベンダン(アカルディ)
などが挙げられます。

ピモベンダンは、弱いホスホジエステラーゼ III 阻害作用に加え、Ca2+ に対するトロポニン C の感受性を増強することにより強心薬として働きます。(トロポニンCに関して:生化学まとめました(1) 3-1 4) 参照 )

ⅶ.cAMP を直接増加

このタイプの代表的な強心薬は
   ・ブクラデシンナトリウム(アクトシン)
などが挙げられます。

ブクラデシンナトリウムは、cAMP に細胞内で変化する薬です。直接 cAMP を増加させることにより強心薬として働きます。ここまでが、心臓の収縮力を上げる薬です。

強心薬をまとめると、以下のような表になります。

◇心臓への負担を軽減させる薬◇

心臓への負担を軽減させる薬は、作用機序により大きく5つに分類されます。

   ⅰ.利尿薬
   ⅱ.硝酸薬
   ⅲ.レニン-アンギオテンシン系作用薬
   ⅳ.α、β受容体遮断薬
   ⅴ.心房性ナトリウム利尿ペプチド

ⅰ.利尿薬

このタイプの代表的な心臓への負担を軽減させる薬は
   ・フロセミド(ラシックス)
   ・ヒドロクロロチアジド(ダイクロトライド)
   ・トリクロルメチアジド(フルイトラン)
   ・スピロノラクトン(アルダクトンA)
   ・トリアムテレン(トリテレン)
などが挙げられます。

フロセミド、ヒドロクロロチアジド、トリクロルメチアジド、スピロノラクトン、トリアムテレンは利尿薬です。利尿作用により、血液循環量を減らします。それにより心臓に戻る血液量が減少することにより前負荷が軽減されます。

ⅱ.硝酸薬

このタイプの代表的な心臓への負担を軽減させる薬は
   ・ニトログリセリン(ミリスロール)
   ・硝酸イソソルビド(フランドル)
などが挙げられます。

ニトログリセリン、硝酸イソソルビドは硝酸薬です。血管を拡張することにより、血管抵抗を小さくします。それにより前負荷、後負荷が軽減されます。

ちなみに、ほぼ同じ成分ですが、イソソルビド(イソバイド)はメニエール病などに用いられます。シロップが飲みにくい事で有名です。冷水で2倍に薄める、炭酸で薄める後味の悪さに対して炭酸うがいが有効、冷やして泡立てて飲むと飲みやすいなどの報告があります。

ⅲ.レニン-アンギオテンシン系阻害薬

このタイプの代表的な心臓への負担を軽減させる薬は
   ・エナラプリル(レニベース)
   ・リシノプリル(ゼストリル、ロンゲス)
   ・カンデサルタンシレキセチル(ブロプレス)
などが挙げられます。

エナラプリル、リシノプリル、カンデサルタンシレキセチルは、レニン-アンギオテンシン系に働きかけることで血管を拡張して血管抵抗を小さくします。それにより前負荷、後負荷が軽減されます。特にエナラプリル、リシノプリルは、心臓リモデリングを抑制することが知られています。

ⅳ.α、β受容体遮断薬

このタイプの代表的な心臓への負担を軽減させる薬は
   ・カルベジロール(アーチスト)
などが挙げられます。

カルベジロールは、α、β受容体遮断薬です。α遮断により血管拡張が引き起こされ、血管抵抗が小さくなります。又、β遮断により、心機能低下が引き起こされ、心筋の酸素消費量を減少させることにより心臓の負荷を小さくする働きがあります。

ⅴ.心房性ナトリウム利尿ペプチド

このタイプの代表的な心臓への負担を軽減させる薬は
   ・カルペリチド(ハンプ)
などが挙げられます。

カルペリチドは、心房性ナトリウム利尿ペプチド製剤です。心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP:atrial natriuretic peptide)は、血管拡張作用及び利尿作用を持ちます。

カルペリチドは遺伝子組換え ANP 製剤です。血管及び腎臓における ANP 受容体に作用して、膜結合型グアニル酸シクラーゼを活性化します。その結果細胞内 cGMP が増加し、血管拡張、利尿作用が引き起こされます。

心臓への負担を軽減させる薬をまとめると、以下のような表になります。

演習 100-30

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