1H-NMRの化学シフト

前項ではNMR法の大まかな原理について説明しましたが、1H-NMRで実際に測定すると以下のようなスペクトルが得られます。

図の下線のところに「0,2,4,6,8,10」と数字が振ってあり、単位が「PPM」となっています。

この数字のことを化学シフトと呼び、前項で説明したように、同じ原子でも分子中の原子の配置によって、αスピンとβスピンのエネルギー差が微妙に異なってくる…というその「微妙な差」がこの化学シフト値として現れます。

化学シフト値の単位が「PPM=百万分率」となっていることからも、エネルギー差がごくわずかであることがわかります。

図中の構造式を見るとわかる通り、この化合物には合計10個のHがあって、構造中に指している矢印の色とスペクトル中のシグナルに指している矢印の色が対応していると考えてください。

これを見ると、たとえば

  • 赤い矢印や水色の矢印で示したアルキル基のHは化学シフトが小さい
  • ピンクの矢印のようにOのとなりにあるCに結合しているHだと化学シフトがちょっと大きくなる
  • 青い矢印や緑の矢印で示した芳香環についたHはかなり化学シフトが大きい
  • オレンジ色の矢印で示したヒドロキシル基のHに至っては何が何だかわからない

…といった風に、構造中のHの位置や状態によって大体の化学シフトがわかります。逆に(というか本来は)、1H-NMRスペクトルだけあって化学構造がわかっていないときでも、化学シフトの数字から化学構造を推測することができるようになっています。

ちなみに、ヒドロキシル基(-OH)のHは上図だと見づらいですが、CについたHと違ってシャープなシグナルにならず、幅広い(ブロードの)シグナルとなります。これはこれでヒドロキシル基を示す貴重な判断材料となります。

また、7.26PPMあたりのところに謎のシグナルがありますが、これは測定したい物質を溶かしている溶媒のシグナルです。

溶媒には測定の邪魔をしないように重クロロホルム(CDCl3)が使われていますが、重クロロホルムの中にも不純物として微量ではありますが、普通のクロロホルム(CHCl3)が含まれてしまいます。

そのクロロホルム中のHが7.26PPMに現れていますが、これは目的の化合物ではないので無視します。さらに余談ですが、溶媒には重クロロホルムのほか、重水などが用いられることもあります。

覚えておきたい特徴的な化学シフトの一覧を以下に記載しますので、これらはできる限り覚えておくと良いと思います。

また、これらの数字はあくまで目安です。構造式全体の状況次第で多少値が左右することもあります。

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