誘起効果・共鳴効果による酸性度の変化

前項では酸性度やpKa の概要と、官能基や族、周期による酸性度の強弱について扱いました。この項では誘起効果や共鳴効果が酸性度に及ぼす影響について解説をします。

誘起効果による酸性度への影響(電子求引性基)

ハロゲンは電気陰性度が大きく、これが分子に含まれていると電子求引性基になります。

とある酸の共役塩基(酸がH+を放出した状態)は、電子求引性基が多く結合しているほうが負電荷が分子全体に非局在化するため安定化します。

よって、ハロゲンなどの電気求引性基が多く結合しているものほど酸性度も高くなります。

また、電子求引性基の数は同じでハロゲンの種類が違うときには、電気陰性度の大きさに注目します。つまり、フッ素が付いているほうが塩素が付いているよりも酸性度が高くなります。

ハロゲン以外の電子求引性基でも同様、誘起効果によって酸性度が高くなります。

ちなみに、代表的な電子求引性基にはハロゲンのほかにニトロ基(-NO2)やメトキシ基(-OCH3)がありますが、その酸性度の大きさは、ニトロ基 > ハロゲン >メトキシ基 の順になります。

誘起効果による酸性度への影響(電子供与性基)

電子供与性基があるときの誘起効果は、電子求引性基があるときのちょうど反対です。つまり、電子供与性基があると共役塩基の安定性が下がるので、酸性度も下がります。

電子供与性基として代表的なものはアルキル基です。

共鳴効果による酸性度への影響

フェノール類の酸性度の強弱は次のようになっています。

これは上述の誘起効果も影響しますが、そのほかに共鳴効果も働いています。例えば上図で最も酸性度の高いニトロ基の付いたフェノールは、以下のような共鳴効果によって共役塩基を安定化させています。

一方、上図で最も酸性度の低いメトキシ基の付いたフェノールでは、メトキシ基が誘起効果としては酸性度を強めるにも関わらず、以下のような共鳴効果により、誘起効果を上回るほど、酸性度を下げる方向に働きます。

注目すべきは共鳴構造の一番右です。負電荷をもつCと電子豊富なOが隣り合っているため、これは上記の4-ニトロフェノールとは反対に不利な共鳴構造です。

コメント