IUPAC命名法(炭化水素)

有機化合物の命名には様々な慣用名や通称名が用いられています。これらの呼び名の由来は、発見者の名前であったり、初めて合成された地名であったり、あるいは化合物の形や化合物が単離された元の天然物の名前など様々です。

これに対し、化合物の構造がその構造を一義的に示す体系的な命名法が、IUPAC(国際純正応用化学連合)によるIUPAC名です。

IUPAC名は「接頭語」+「母体炭素数」+「接尾語」の3部分から成ります。

  • 接頭語  :主鎖に付く置換基の位置と名称を表します。
  • 母体炭素数:主鎖の炭素骨格を表します。
  • 接尾語  :分子中の母体となる官能基を表します。

IUPAC名を見て構造を理解したり、または逆に構造から名前を付けるために必要な知識について、以下で少し掘り下げて説明していきます。

炭化水素の分類

炭化水素とは炭素と水素のみからなる化合物の総称です。また、炭化水素は飽和炭化水素と不飽和炭化水素に分けることができます。

飽和炭化水素とは全ての炭素原子が単結合によってつながった化合物で、これらを総称してアルカンと呼ばれます。一般式はCnH2n+2で示されます。

不飽和炭化水素は炭素間に二重結合または三重結合を持つ炭化水素のことで、前者をアルケン、後者をアルキンと呼びます。アルケンはCnH2n、アルキンはCnH2n-2で示されます。

数詞

IUPAC命名法では、数詞を用いることが多く、この際はギリシャ語の数字を使います。これらは本当によく使うので、意識しなくても自然と身に付くと思います。

直鎖炭化水素の命名

ここでは枝分かれを持たない(=直鎖)炭化水素について考えます。

二重結合や三重結合を持たないアルカンの場合その一般式がCnH2n+2で表されますが、n=1,2,3,4の順に、メタン、エタン、プロパン、ブタンという名称になっています。

それ以降のn=5,6,7,…についてはペンタン、ヘキサン、ヘプタン…と続きますが、これは上で紹介した数詞とアルカン(alkane)のアン(-ane)とを組み合わせたものとなっています。

また、次の項の先取りになりますが、アルキル基というものがあります。これはアルカンの水素をひとつ除いたもののことで、メタンに対応するアルキル基はメチル基、エタンに対応するアルキル基はエチル基といった具合になります。

ここまでを理解できれば、アルケンやアルキンの命名も難しくありません。

アルケン(alkene)はアルカン(alkane)のアン(-ane)をエン(-ene)に変えただけです。例えばプロパン → プロペンといった感じです。

同様にして、アルキン(alkyne)はアルカンのアン(-ane)がイン(-yne)になります。例えば、プロパン → プロピンのようになります。

側鎖を持つアルカンの命名

続いて、側鎖(枝分かれ)を持つアルカンの命名について考えます。具体例を見てから説明を読んだほうがわかりやすいと思うので、最初に具体的なアルカンを記載し、その後に解説をします。

例① 2-メチルブタン

例①を見ると、その化合物名が「2-メチルブタン」となっています。IUPAC名はすでに説明したとおり、「接頭語」+「母体炭素数」+「接尾語」の3部分から成ります。今回の場合ですと、

  • 接頭語  :2-メチル
  • 母体炭素数:ブタ(but-)
  • 接尾語  :アン(-ane)

となります。

母体炭素数をいうのは、直鎖でつながった炭素数のことなので、ここでは4です。そのブタンの2位にメチル基が付いているため、「2-メチルブタン」となります。

ここで注意すべきことは、メチルの位置を右から3つ目の炭素に付いているから「3-メチルブタン」としては誤りになります。左右両方から数えて、より若い番号のほうを採用するという決まりがあるためです。

また、上記には2種類の構造式を載せましたが、どちらも同じ化合物を意味します。

左側は炭素や水素をCやHで表す書き方です。一方、右側は水素を省略し、かつ、炭素と炭素の結合を直線で表す表記法です。使い分けの基準はありませんが、化合物が複雑になってくると右側の書き方のほうがわかりやすい場合が多いです。

続いて、もう一例みてみようと思います。

例② 3-エチル-2-メチルペンタン

例②についても先ほどと同じように考えます。すると、

  • 接頭語  :3-エチル-2-メチル
  • 母体炭素数:ペンタ(pent-)
  • 接尾語  :アン(-ane)

となります。先ほどの説明に従うと、メチルは4位ではなく、2位となります。

ここで気をつけるポイントは、この命名を「2-メチル-3-エチルペンタン」としないようにすることです。普通に考えると「3~2~」よりは「2~3~」のほうが自然ですが、ここでは数字の大小ではなく「メチル」か「エチル」かが判断基準となります。

メチル(methyl)の”m”とエチル(ethyl)の”e”とでは、アルファベット順に考えると、”e”のほうが早いため、エチルのほうがメチルよりも先に表記されるといった具合です。

アルケンの命名

すでに紹介済みですが、分子内に二重結合を1つ持つ炭化水素のことをアルケンといい、その一般式はCnH2nで表されます。

アルケンの命名は、アルカンの「アン(-ane)」をアルケンの「エン(-ene)」に変えます。また、二重結合の位置を以下の例のように、炭素の番号が最小になるようにつけます。

例③ ペンタ-2-エン(別名:2-ペンテン)

例④ 3-メチルペンタ-1-エン(別名:3-メチル-1-ペンテン)

例⑤ 2,6-ジメチルヘプタ-3-エン(別名:2,6-ジメチル-3-ヘプテン)

アルケンの場合、例③のようにアルケン(alkene)の”alk-“と”-ene”の間にその位置を表す数字が入ります。この位置も先ほどと同様に、左右両方から数えて番号の若いほうを採用します。

例④はメチル基がついていますが、これはアルカンの場合と同様に考えればほとんど問題ありません。ただし、アルケンは二重結合の位置により構造式の左右どちらを1位にするか決定してしまっているので(例④の場合は左端が1位)、メチル基の位置も同様に左から数えます。

例⑤はやや複雑な構造に見えますので、順を追って考えていきましょう。

まず、直鎖の炭素数が7のアルケンですので「ヘプタ-n-エン」となります。”n”には二重結合の位置を表す数字が入りますが、二重結合の位置は左から4番目、右から3番目と読めますので、より若いほうを採用し、「ヘプタ-3-エン」となります。

さらにメチル基が2つありますが、この位置は右から数えて2位と6位にあります。同じ置換基の場合は「2-メチル-6-メチル」のようには書かず、「2,6-ジメチル」となります。

この「ジ(di)」は数詞の項で扱った通り、ギリシャ語の”2″を意味します。同じくメチル基が3つあれば「トリメチル」、4つあれば「テトラメチル」のようになります。

少し脱線しましたが、そのような経緯で、例⑤のIUPAC名は主鎖の「ヘプタ-3-エン」と側鎖の「2,6-ジメチル」を組み合わせて「2,6-ジメチルヘプタ-3-エン」となります。

アルキンの命名

分子内に三重結合を1つ持つ炭化水素のことをアルキンといい、その一般式はCnH2n-2で表されます。

アルキンの命名は、アルケンの時とほぼ同じで、アルケンの「エン(-ene)」をアルキンの「イン(-yne)」に変えただけです。

例⑥ 3,3-ジメチルブタ-1-イン(別名:3,3-ジメチル-1-ブチン)

シクロアルカンの命名

シクロアルカンとは、環状のアルカンのことです。シクロ(cyclo-)はサイクロとも読み、「環」を意味します(自転車のサイクルと同じ語源です)。

その一般式はアルケンと同じCnH2nで表され、命名は「シクロ」+「アルカン」です。

例⑦ シクロペンタン

例⑧ シクロヘキサン

ポリエンの命名

二重結合が複数個ある化合物をポリエンといいます(ポリは複数とかたくさんという意味です)。

例えば二重結合が2つあればジエン(diene)、3つあればトリエン(triene)といったように、数詞とアルケンを組み合わせた命名になります。

例⑨ 2-メチルブタ-1,3-ジエン(別名:2-メチル-1.3-ブタジエン)

シクロアルケンの命名

シクロアルケンはその名の通り、環状のアルケンです。環状の化合物なので末端がないため、二重結合のある炭素のどちらか一方を1位とします。

例⑩ 1-メチルシクロペンテン

例⑪ 1,6-ジメチルシクロヘキセン

例⑩の命名を見てもわかるように、シクロアルケンの場合は二重結合の番号を書いていません(置換基の番号は書きます)。これは、必ず二重結合が1位と2位になるため、わざわざ位置を示す必要がないためです。

例⑪の左と右は同じ化合物ですが、炭素の番号の振る位置が違います。

その命名は左だと「1,6-ジメチルシクロヘキセン」となり、右だと「2,3-ジメチルシクロヘキセン」となります。このような場合、より若い番号を含むほうが優先されるため、左が正しく、右の数字の振り方は誤りとなります。


以上が基本的な炭化水素のIUPAC命名法となります。

次の項では、炭化水素でない化合物(ヘテロ原子含有化合物)の命名法について説明します。

コメント