国家公務員総合職(化学・生物・薬学)R1年 問25解説

 問 題     

H2+ の電子波動関数に関する次の記述の ㋐~㋓ に当てはまるものの組合せとして最も妥当なのはどれか。

「水素原子核 A、B、電子1 個から成る H2+ の結合性軌道の規格化された電子波動関数を次のように近似する。
ψ = N(Φ1s,A1s,B
ここで、Φ1s,A 及び Φ1s,B は H2+ の二つの水素原子核 A、B 上に置かれた水素原子の 1s 軌道の規格化された波動関数である。規格化定数 N は、重なり積分 S を用いて ㋐ と表される。平衡核間距離における S の値はおよそ ㋑ である。共鳴積分 β は H2+ の核間距離 R の関数であり、 ㋒。また、ψ のエネルギー期待値は β、S、クーロン積分 α を用いて ㋓ と表される。」

 

 

 

 

 

正解.1

 解 説     

「波動関数の絶対値の2乗」を全空間で積分すると1です。
波動関数は、一種の複素数です。z = a + bi が馴染みがあると思います。共役な複素数というのが a – bi で表されます。複素数と、共役複素数を掛けると絶対値の 2 乗です。ψ の共役複素数を ψ* と表します。「∫ψ*ψ dτ = 1」・・・(1)ということです。

(1)の左辺ですが、本問では 1s 軌道=球なので 「角に依存しない」 → sinθ、cosθ 等を含まず、オイラーの公式を用いて変換しても i(虚数単位)がないということをふまえると、単に与えられた波動関数を 2乗すればよいと考えられます。

つまり
N2∫(Φ1s,A 2+ Φ1s,B 2+2 Φ1s,A Φ1s,B) です。

項別に見れば、第1項、第2項は、水素原子核についての波動関数を全空間で積分なので、1です。第3項の部分が「重なり積分」です。

従って N2(1+1+2S) = 1という等式を導くことができます。N について解けば N = √(1/2(1+S)) です。正解は 1 ~ 3 です。

重なり積分の部分は全部積分しても1にはなりません。「重なり部分に絶対電子がいるかっていうと、そうではないはずだから」と大雑把に考えて判断するとよいのではないでしょうか。これにより、正解は 1 or 2 です。

エネルギー期待値ですが
E = ∫ψ*Hψ/∫ψ*ψ です。これは基礎知識です。(シュレディンガー方程式 Eψ = Hψ の左側から ψ* を掛けて、E は外に出せることから導くことができます。)

分母は N2(2+2S) です。
分子部分ですが、H をハミルトニアンと呼びます。
クーロン積分 α は、∫ψ*Hψ ※ただし添字が同じもの 
共鳴積分 β は、∫ψ*Hψ ※ただし添字が違うもの のことです。

分子部分は
∫N(Φ1s,A1s,B)*(H) N(Φ1s,A1s,B) です。N2 をとりあえず外に出してしまい、分母と約分してしまいます。残っている部分を項別の積分で表すと
∫Φ1s,A *(H) Φ1s,A +
∫Φ1s,A *(H) Φ1s,B +
∫Φ1s,B *(H) Φ1s,A +
∫Φ1s,B *(H) Φ1s,B です。添字が同じものは α、添字が違うものが β です。

従って、エネルギー期待値は
2(α + β)/(2+2S) = α+β/(1+S) です。 

以上より、正解は 1 です。

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