問 題
2つの5員環化合物(A、B)から図に示す反応を以下の操作手順で行った。この反応に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。
実験操作
100mLの丸底フラスコにB(60mmol)を入れ、無水ベンゼン(50mL)に溶かす。これを約5℃に冷却し、A(66mmol)の無水ベンゼン(5mL)溶液を5分間で滴下する。室温で10分間撹拌後、さらに10分間加熱還流させると、化合物CとDの生成を確認した。
放冷後、石油エーテル(約30mL)をゆっくりと加え、冷却すると、生成物Cが析出した。
- この反応はディールス・アルダー反応とよばれる。
- この反応はエンド則に従い、主にCを生じる。
- Aからヒドリドがとれて生じる化合物は芳香族性を示す。
- Bの名称は無水フタル酸である。
- Cを単離するには、ひだつきろ紙を用いて吸引ろ過するのが最も適している。
解 説
設問の反応は、共役ジエンにアルケンが付加して不飽和6員環構造を形成する、[4+2]付加環化反応です。このような反応のことを Diels-Alder(ディールス・アルダー)反応といいます(参考 有機化学まとめ Diels-Alder反応)。よって、選択肢 1 は正解です。
また、この反応は endo(エンド)則という速度論的支配で反応が進む性質があるので、選択肢 2 も正解です。endo 則により化合物 C が生成しますが、その構造を見てもわかるとおり、置換基が axial 位にあるので熱力学的には不利です。
化合物 A からヒドリド(H-)がとれると、次のような構造になります。
これはπ電子が4つしかなく、Hückel則(π電子が4n+2個)を満たしません。芳香族性を示すためには Hückel 則を満たす必要があるので、選択肢 3 は誤りです。
化合物 B は無水フタル酸ではなく、無水マレイン酸です。
よって、選択肢4も誤りです。
選択肢 5 はひだつきろ紙で吸引ろ過とありますが、ろ紙とろ過の組み合わせが不適切です。吸引ろ過は水やポンプの力で引圧を作り、ろ過速度を高めるようなろ過の方法です。
普通はグラスフィルターにろ紙を載せ、その上から試料を流し込みます。ひだつきろ紙のような隙間だらけのろ紙を使うと吸引しても隙間から空気がすーすー入り込んでしまって、うまく引圧を作ることができません。もしひだつきろ紙を用いるなら、吸引しないそのままのろ過(自然ろ過)をおこないます。よって、選択肢 5 は誤りです。
以上から、正解は 1, 2 になります。
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