薬剤師国家試験 第107回 問180 過去問解説

 問 題     

図は、pH 7.4、37 ℃ の緩衝液中におけるある弱酸性薬物の加水分解に対するシクロデキストリン添加の影響を示したものである。本実験条件において、この薬物とシクロデキストリンはモル比 1:1 で複合体を形成する。

ここで、kf は薬物自体の分解速度定数 (2.26×10-3h-1)、kobs (h-1) は見かけの薬物分解速度定数 (h-1)、K1:1 は複合体の安定度定数 ((mol/L)-1)、kc は複合体中の薬物分解速度定数 (h-1)、[CD]t はシクロデキストリンの総濃度 (mol/L) としたとき、次のような関係式が成立する。

以下の記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。

  1. この薬物との複合体の安定度定数は 190 (mol/L)-1 である。
  2. 複合体中の薬物の加水分解速度定数は 6.02 × 10-1 h-1 である。
  3. シクロデキストリンの添加濃度の上昇にしたがい、この薬物の見かけの加水分解速度定数は増大する。
  4. シクロデキストリンは、この薬物の加水分解に対して安定化効果を示す。
  5. 複合体形成によるこの薬物の安定化効果は pH によって変化しない。

 

 

 

 

 

正解.1, 3

 解 説     

選択肢 1 は妥当です。
y = -266/K1:1・x – 266 において、傾きが ー1.4 なので
K1:1 が 190 です。計算過程は、下図参照。

選択肢 2 が正しいと仮定します。
Kc = 0.602 ということになります。問題文より Kf = 0.00226 です。傾き部分に注目し、K1:1 = 190 も代入すると、傾き部分が ー1.4 になりません。従って、仮定が正しくなかったため、選択肢 2 は誤りです。ちなみに、本番において求める必要はないのですが、Kc = 0.00602、つまり、6.02 × 10-3 が正しい値です。

選択肢 3 は妥当です。
[CD] 増加 → 1/[CD] は減少 → グラフで言うと 左方向へ移動
→ 点は上に移動 しているから、1/(kf ーkobs ) が増加
分母 (kf ーkobs) が小さくなる
kf は定数なので、 (kf ーkobs) が小さくなる ということは、kobs は大きくなっている、という流れです。 

選択肢 4 ですが
シクロデキストリン添加を増やすと、見かけの加水分解速度定数が増大するのだから、加水分解が促進されています。「加水分解に対して安定化効果を示す」わけではありません。選択肢 4 は誤りです。

選択肢 5 ですが
弱酸性薬物の加水分解なので、pH 関係ありそうですが、pH の影響について、本問からはわかりません。選択肢 5 は正しいとはいえません。

以上より、正解は 1,3 です。

ーーー以下、完全に雑感。
国試合格には不要です。

シクロデキストリン添加 といえば、アルプロスタジルアルファデクスがよく過去問で扱われていることもあり、「安定化」が浮かぶことが多かったのではないでしょうか。この問題は シクロデキストリンという分子が 加水分解を「促進」する、つまり触媒として作用することもある、ということを意識できる 貴重な問題と感じました。

色々調べてみると、本試験時点における、シクロデキストリン研究における日本の優位性であったり、シクロケムという会社の存在を知れたり、知らない世界が一気に広がっていきました。研究室で扱っていた分子シミュレーションを用いた手法による論文などもあって、とても興味深いし

要するに、糖の一種だから、気軽に手が出しやすそうって感じる。とてつもない機器とか使わなくっても、何か工夫したら 手軽な実験で 面白い成果が出せそうだったりしないかな・・・?など、連想が広がりました。

こういった問題に出会うと
特に製薬分野、製剤分野で、本試験合格後に活躍していく人にとっての 将来活用できる素晴らしい知恵につながる種が、試験問題に散りばめられていると、改めて感じます。もちろん合格へのプレッシャーとか、色々あると思うんですけど、1問1問を深く味わい、楽しむ気持ちも どうか頭の片隅に忘れないでほしいな、と、個人的に思います。
以上、雑感終わり。ーーー

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