非線形性の薬物動態とは、投与量と血中薬物濃度が単純に比例せず急に薬物濃度が上昇したり減少したりすることです。代表的な原因は「代謝酵素の飽和」です。これをもう少し具体的に考えます。
代謝酵素と薬物は、以下のような関係で表すことができます。
Km
薬物+酵素 ⇄ 薬物酵素複合体 → 代謝物 ※Km は、ミカエリス定数 と呼ばれます。
ミカエリス定数の意味は「理論的最高代謝速度の半分になるような薬物(基質)濃度」です。薬物の代謝速度は、以下のように表すことができます。この式は「ミカエリス-メンテン式」と呼ばれます。
v = Vmax[S]/Km+[S]
グラフにすると、以下のようになります。※横軸が、薬物濃度、縦軸が v であることに注意してください。
このグラフが意味することは、ある程度血中薬物濃度(基質濃度)が上昇するまでは、薬物濃度と消失速度は比例関係ですが、ある程度からは薬物濃度の上昇にもかかわらず消失速度が頭打ちになるということです。
(薬物+酵素 ⇄ 薬物酵素複合体 → 代謝物 から、ミカエリス-メンテン式を導出するのですが公式として覚えてかまいません。導出は余裕があれば一度追っておく ぐらいで OK です。(このページの一番下を参照。))
さて、代謝過程が飽和すると、結局、投与量と薬物濃度の関係はどうなるのでしょうか。薬物動態パラメータに注目すれば、CLtot が減少します。この結果、半減期が伸びます。※血中濃度が上昇し副作用リスクが上がるといえます。
ちなみに、薬物と反応するタンパク質は代謝過程に存在するものだけではありません。他の過程におけるタンパク質の飽和も非線形薬物動態を引き起こしうるのです。『代謝過程の飽和』以外に、以下の 3 つが非線形薬物動態を示す代表的原因として知られています。
1:『消化管吸収の飽和』(能動的に吸収される薬物に対する輸送担体の飽和)→ 血中に薬物が移行しなくなる → 薬物動態パラメータに注目すれば、AUC が D に比例しなくなる。(頭打ち)※血中濃度が上がらず適切な薬効が期待できなくなる可能性があるということ。
2:『腎における、分泌過程の飽和』 → 血中から尿への薬物移行速度が減少 → 腎 CL が減少。半減期が伸びる。※血中濃度が上昇し副作用リスクが上がるということ。
3:『腎における、再吸収過程の飽和』 → 原尿から血中への薬物移行速度が減少 → 腎 CL が増加。半減期が短くなる。※血中濃度が上がらず適切な薬効が期待できなくなる可能性があるということ。
※※※以下は、余裕がある時に目を通してください。※※※
ミカエリス-メンテン式の導出は、大きく 3 ステップです。
STEP1
『薬物+酵素 ⇄ 薬物酵素複合体 → 代謝物』 の左側の平衡部分から、計算する。[E]all (系中に存在する全タンパク質の濃度)を用いて、[ES] = ・・・にする所を意識して覚えておく!
STEP2
左辺を v = ・・・ にする。そのために『薬物+酵素 ⇄ 薬物酵素複合体 → 代謝物』の右側を用いる。速度定数を k2 とします。(反応の第一段階で薬物酵素複合体になり、二段階目の反応の、速度定数 ということで k2 です。STEP 3 でなくなるので、安心してください。また、別の表し方でも問題ありません。)
STEP3
Vmax を見つけて、完成させる。
STEP2 で見たように、[ES] の最大値は、せいぜい[E]all です。つまり『Vmax = -k2 [E]all 』と表すことができます。これを STEP2 のラストの式に代入すれば、ミカエリス-メンテン式の出来上がりです。
※※※導出 以上。※※※
以上です。
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