薬物代謝酵素の変動要因としては、個人内、個人間の変動があります。
個人内の代謝の変動要因として、年齢や性差、疾病の有無、併用薬物による代謝阻害、代謝誘導 等があります。個人間の違いの要因として、人種差や、遺伝的多型 等があります。
【代謝阻害】
代表的な薬物としては、アゾール系抗菌薬 及び マクロライド系抗生物質(~リスロマイシン) が、CYP 3A4 を阻害することが知られています。
【代謝誘導】
代表的な薬物としては、リファンピシン、カルバマゼピン、フェニトイン、フェノバルビタール が、ほぼすべての CYP 分子種を誘導することが知られています。
【人種差】
人種差が見られる代表的代謝酵素は、N-アセチル基転移酵素(NAT)です。イソニアジド(抗結核薬) の代謝酵素なのですが、日本人の代謝能が大きいことが知られています。
【遺伝的多型】
遺伝的多型とは、個人ごとの遺伝子の違いのことです。特に、一塩基のみの違い(・・・A「T」GC・・・が、・・・A「A」GC・・・とか。)を、SNPs (一塩基多型 「スニップス」 と読む。)といいます。
多型による代謝の変動が知られているのが、イミプラミン(三環系抗うつ剤)です。イミプラミンは主として CYP2D6 で代謝されるのですが、一部は、CYP1A2 により脱メチル化されます。そして、脱メチル化されたものは活性代謝物なのです。
普通は、ほとんど2D6で代謝されるのでわずかに1A2 で代謝される方の影響はほぼないのですが、2D6 の PM(Poor Metabolizer:代謝能の低い集団) では、代謝物のメインが 1A2 による脱メチル体になり作用が強く出る という変動があります。
他には、UDP-グルクロニルトランスフェラーゼの1つである UGT 1A1 に、多型が知られています。これは、抗がん薬のイリノテカンの活性代謝物である SN-38 を代謝するのですが、この多型で代謝能が小さいと、重篤な副作用の発現比率が高まることが知られています。そのため、この遺伝的多型の血液検査は、保険適用になっています。
また、CYP2C19の遺伝的多型と、オメプラゾールの血中濃度及びピロリ菌除菌の成功率には高い相関があることが知られています。
ちなみに、薬物代謝酵素とは少し違うのですが遺伝子検査を行ってから、薬の使用を決定するといえば、分子標的治療薬です。トラスツズマブのHER-2 など、分子標的治療薬と、対応する遺伝子はセットで逐一憶えておく必要があります。
演習
97-85(CYP阻害、誘導 関連の問題。)
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